「立ち直る力」を育てる親のかかわり(小関俊祐:桜美林大学リベラルアーツ学群准教授)#立ち直る力
2020年4月の緊急事態宣言により、多くの学校が休校となったり、会社も自宅からのリモートワークや時差通勤を選択したりするような対応がなされました。あわせて、マスクの着用が日常的になり、手洗いやうがい、アルコール消毒の徹底、ソーシャルディスタンスの確保などの「行動変容」が求められました。 このように、社会情勢の変化が私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼすこととなり、コロナ禍以降、ストレスや不安を感じている人の増加へとつながっています。
コロナに関連する緊急事態に対して、心理学に関するいくつかの学会や協会も、不安や落ち込み、抑うつ感情等に対する具体的な支援策や予防策を発信してきました。
たとえば日本ストレスマネジメント学会では、「新型コロナウイルスに負けるな!みんなでストレスマネジメント」の特設ページを作成し、自宅で過ごす時間が増えたことに対する運動不足やそれに伴う心身の不調を予防する方法、学校再開時の留意点や子どものストレスサインに気づく方法について紹介してきました。
あわせて、子どもたち自身にも、心理的なストレスについて知り、対処できることを促すために、「ストマネマスターへの道」という中高生向けのコンテンツを作成しています。
同様に、一般社団法人公認心理師の会では、「メンタルヘルスのために活用できる資料集」を紹介し、心理学に関連するさまざまな観点から心の健康づくりやストレスマネジメント、メンタルヘルス向上等に役立つ情報を発信してきました。
こうした対応は一定の反響が得られたものの、その一方では2020年度の全国の小中学校の不登校児童生徒が2019年度に比べて8.2%増加して19万6127名で過去最多となり、さらに新型コロナウイルスの「感染回避」のために長期間にわたって登校しなかった小中高生は3万人を超え、自殺者は415名だったことが文部科学省の調査結果として報告されました。
不登校や自殺の問題は、心理的なストレスとの関連が深いと考えられていますが、コロナ禍の直接的な影響(コロナに罹ったら、コロナを大事な人にうつしてしまったらどうしようといった不安等)、あるいは間接的な影響(コロナで家族の収入が減ったらどうしようといった不安、部活ができなくなってイライラする等)を受けて、心理的ストレスが高まった可能性もあるでしょう。実際に、徳島大学の山本哲也准教授らの調査では、うつや不安などのストレスを感じている人が大幅に増加していたこと、孤独感やフラストレーション、新型コロナウイルス感染症に関連した不眠や不安は心理的苦痛のリスクとなることが報告されています。
ストレスに気づき、対処する方法
このようなうつや不安、あるいはストレスを適切に対処し、コントロールすることをストレスマネジメントと呼びます。強いストレス反応を減らすことだけではなく、ストレスに対して正しい知識をもち、ストレスを感じていることに適切に気づき、ストレスとうまくつきあうための対処方法を習得することを目指します。具体的な手続きとしては、認知行動療法やリラクセーションが挙げられます。
ストレスマネジメントでは、「ストレスを感じないこと」や「ストレスをゼロにすること」を目標とするのではなく、「ストレスを感じたときに、適切に対処できるようになること」を目指します。ストレスをゼロにすることは、非常に困難であると同時に、ストレス自体はモチベーションや緊張感等、生活するうえである程度必要な要素でもあります。したがって、ストレスをゼロにするよりも、日常生活が脅かされるような過剰なストレスを感じた際に、ある程度生活できる水準までストレスを下げ、本来やろうとしていた活動等に適切に取り組めることを目指します。
具体的には、認知行動療法の「認知」に着目すると、「先行きがわからないから頑張っても仕方がない」というような認知(考え)が浮かんだ場合、モチベーションが下がり、仕事や勉強に手を付けにくくなってしまうかもしれません。しかし、「できることをコツコツやることが大事」「先行きがわからないからこそ、いろんな知識やスキルを身につけておこう」「つらいのは自分だけじゃないから、もやもやしている気持ちを整理してみよう」等の認知(考え)に気づくことができると、少しストレスを軽くすることができるようになるかもしれません。
あるいは認知行動療法の「行動」に着目すれば、「コロナが不安だから人が集まるところには行かない」 ことを続けるのは、学校や会社があることを考慮すると困難である一方で、コロナ感染への不安はなかなかなくなりません。そのようなときに、「感染リスクを減らすためにマスクをして手洗い、うがいをする」「 室内の換気を心がける」「マスクをしていない人に文句を言うよりも、自分が動いてソーシャルディスタンスを確保する」等の新たな行動を獲得することで、不安やストレスへの対処につながる可能性もあるでしょう。
子どものへの声かけ・働きかけのコツ
このような認知や行動に焦点を当てた働きかけは、子どもへの声かけや支援にも有効です。「ストレス」という言葉自体は小学生の多くが知っているかもしれませんが、具体的に、どのようなときにどのようなストレスを、どの程度感じているのかを整理しながら、認知や行動に焦点を当てた声かけと、それに基づく対処法について話し合いができるとよさそうです。以下に例を挙げてみます。
これらの対処法は、コロナに関連しなくても活用可能な視点となります。この機会に、具体的な対処について家族で共有するのもよいでしょう。
親子で作戦会議!
子どもの年齢によっては、ストレス対処の方法を身につけていなかったり、対処法の選択肢が少なく、対処法を柔軟に使い分けられなかったりすることがあります。そのときには、その問題が「解決できそうな問題かどうか」の視点を持ちながら、対処法を子どもと一緒に考える、作戦会議を実施するとよいでしょう。
解決できそうな問題の特徴は、自分の身近な問題で、自分の努力によって問題が変化する可能性が大きいものや、現在進行形の問題であったり、これから起こりうる問題であったりすることが多いです。具体的な解決の手段を、一つひとつの行動レベルで確認できるよう、子どもと一緒に整理してみることがおすすめです。「頑張ってごらん」という声掛けの中身をかみ砕いで、いつ、どこで、誰と、どのような行動をとることが、「頑張る」ことにつながるのかを、子どもが気づけるように声掛けをすることができると良いでしょう。
一方、解決できなさそうな問題の特徴は、自分の努力次第では解決することが困難だったり、すでに問題が結果として生じており今から結果を変えることができなかったりすることが多いです。そのような問題を解決しようとしても、なかなか解決には至りにくいので、かえってストレスが増えてしまう可能性が高いといえます。そんなときには、気持ちがリラックスできたり、心の元気がたまったりするような、趣味や好きなことに集中する時間を作ることや美味しい物を食べる等の対処がよいでしょう。
解決できそうな問題に対しても、解決できなさそうな問題に対しても、対処方法がひとつしかない、というのは望ましくありません。特に、「人と会っておしゃべりすることでストレス発散!」という対処法しか持っていなかった人は、コロナ禍で人と会えないこと自体がストレスにつながっていたことでしょう。ひとつめの対処方法がうまく行かなくても、2つめ、3つめの対処方法が思い浮かぶように、子どもも大人もストレス対処の選択肢を増やすことができるとよいでしょう。
子どものストレスをすべて取り除いてあげることはできないのだから…
親としては、わが子が悩んだり苦しんだり、ストレスを感じたりすることをできるだけ減らしてあげたいと思う気持ちがあるでしょう。しかしながら、実際にストレスを感じずに生きていくことは困難です。むしろ、成人した後も含めて重要なのは、ストレスを感じた時に、自分で対処する力を養うことといえるでしょう。
コロナの直接的、間接的な影響を受けて、通常よりもストレスを感じやすい日々が続くかもしれませんが、将来のお子さんにとっての糧となることを期待しつつ、また親子で過ごせる今だからこそ、ストレスについてともに学んだり、ストレスを感じた時の対処方法について一緒に考えたりする機会としていただければと思います。
執筆者プロフィール
【主な著書】