「こころ」のための専門メディア 金子書房
【第1回】ブリーフセラピーは誰でもできる(吉田克彦:合同会社ぜんと代表)連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー
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【第1回】ブリーフセラピーは誰でもできる(吉田克彦:合同会社ぜんと代表)連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー

「こころ」のための専門メディア 金子書房

はじめに

 はじめまして、吉田克彦と申します。大学在学中から不登校引きこもり問題を抱える家族の支援に携わり、それ以降、スクールカウンセリングや被災地心理支援、企業カウンセラーなどを経験してきました。現在は会社を立ち上げ、個人向けのカウンセリングと法人・団体向けのメンタルヘルスサービスを提供しています。

 今回、金子書房さんにお声がけをいただき、noteでブリーフセラピー/家族療法についてご紹介する連載の機会をいただきました。大学時代から、数あるほかのアプローチに興味を示さず、家族療法・そしてブリーフセラピーばかりを実践してきました。したがって、「他の心理療法と比較して優れているところ」や、「ほかのアプローチではできずにブリーフセラピーだからできること」などといった偉そうなことは言えません。単純に「相談をしてくれた人が、できる限り楽になる」ことだけを考えてブリーフセラピーを使っています。

 今回の連載は、まさに「相談してくれた人が、できる限り楽になる」ためのコツをお伝えすることが目的です。この連載で紹介するコツは、カウンセリングに限らず仕事やプライベートなどで相談する/されるという経験のある方にも役立つものです。したがって、カウンセリングを職業としていない方々が、仕事やプライベートなどの日常でも活用できるような情報をお伝えできるよう心がけます。 

ここでのブリーフセラピーとは?

 ブリーフセラピーという用語は現在いろいろな意味で使われています。読んで字のごとく「短期間で終結するセラピー全体」を指すという広い考え方から、「ブリーフセラピー=ソリューション・フォーカスト・アプローチ(解決志向アプローチ)」という趣旨の説明がされることもあります。それだけ、ブリーフセラピーというのは、多種多様で人によって受け止め方が違うものです。この辺りはとてもわかりにくく、私自身も説明するのが非常に苦手です(そのため、あえて本連載のタイトルに「家族療法」と「ブリーフセラピー」を併記しています)。

 「多様な見方の1つ」として、本連載で“あくまで私がお伝えするブリーフセラピー”は、「問題を個人的要因に帰属するのではなく、『相互作用』で見立てるアプローチ」のことを指します。私が行うカウンセリングでは、コミュニケーション派家族療法(MRIアプローチ)と戦略派家族療法を基本として、ソリューション・フォーカスト・アプローチやナラティブ・アプローチなどの手法も取り入れて「相談者の負担をできる限り少なくすること」を考えています。

 本連載で紹介する事例についても、あくまで「相談してくれた人が、できる限り楽になる」ことを最優先にMRIアプローチの影響を受けた、ソリューション・フォーカスト・アプローチやナラティブ・アプローチなど、いろいろな技法を混ぜた内容になっています。

日常にあるブリーフセラピー

 家族療法になじみのない方でも「リフレーム(リフレーミング)」や「悪循環」「多様な見方」といった言葉を耳にしたことはあると思います。現在では、カウンセリング場面だけでなく教育やビジネスなど日常生活でも使われることもありますが、これらの視点も、もともとはブリーフセラピーの実践の中から生まれたものです。つまり、ブリーフセラピーの視点は、カウンセリング場面に限らず日常でも活用できます。そして、日常ですでに行われているさまざまな工夫をブリーフセラピーの視点を通して理解することで、さらに広く活かすことができるでしょう。

 ここでは、カウンセラーではない、一般の方が実践しているブリーフセラピー的なエピソードを3つ紹介します。

【エピソード1】「認知症患者へのエアインタビュー」
 認知症があるAさん。Aさんは話し始めると、同じ話をリピートしながら話し続けるので周囲の看護師たちも困っていた。そこで、1人の看護師が手にマイクを持っているかのように握り、「…して、ご職業は何を?」と患者にその手を患者に差し向けた。
 すると、背筋を正して「わたくしは…」と畏まって話し始め、インタビューが終わるとその場をスムーズに離れることができた。さらに、インタビュー形式にすることで、普段は話したがらない家族のことなども語られ思わぬ情報収集ができた。

【エピソード2】「玉入れの後のお片付け競争」
 運動会の玉入れ競技の一場面。競技では、カゴに向かって玉を投げ入れ、カゴから1つずつ放り投げて数えていく。そのため終了後には玉が一面に散らばった状態になってしまう。そこで、次の瞬間、「お片付け競争、ヨーイ」という先生の声で子どもたちは「待ってました」とばかりにスタートの姿勢をとる。笛の合図で一気に子どもたちは玉を拾い集め、赤白それぞれ色分けされた箱の中に玉をしまっていく。
 散らばった玉を素早く収納し、先生方の片付けの負担も軽減されるだけでなく、子どもたちも張り切って取り組む。まさにブリーフな方法である。

【エピソード3】「トイレはブリーフ的視点の宝庫」
 20年ほど前にスクールカウンセラーをしていた時、学校で男子トイレの小便器の足元におしっこが垂れて不衛生だと問題になった。そこで、副校長が「これを使えばいいよ」と小便器に置く芳香ボールを用意した。
 最近では、小便器に的のシールが貼られているのをよく見かけるが同じ原理である。「飛び散らかしてはいけない」という禁止ではなく、狙いどころを示す介入はブリーフセラピー的である。他にも、床にスリッパと同じ形を書いて、そこにスリッパを揃えるように促したり、「きれいに使いましょう」ではなく「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」と書かれているのも、(きっかけは全く違うだろうが)ブリーフセラピー的である。

 日常にあふれるブリーフセラピー的な視点のエピソードを3つ紹介しました。どれも「なんだ、そんなことか」と思われたかもしれません。「その程度の工夫なら自分でも、いくつもあるよ」と……そうなんです! ブリーフセラピーというのはそのくらい簡単で日常に溶け込んだ工夫の数々であり、先人たちの知恵の集合体でもあります。

ブリーフセラピーらしさとは?

 「ブリーフセラピー」らしさとは?と私が聞かれて、考えるポイントは以下の4つです。

①犯人探しや原因追及をしない

 法的な責任の明確化などはもちろん別ですが、問題解決を考える場合に「相互作用」で問題をとらえると、犯人探しや原因探しが不毛なやりとりになります。以下の子どものいざこざを例に見てみましょう。子ども同士(YくんとZくん)がけんかをしていました。悪いのはどちらでしょうか?

Yくん:最初に悪口行ってきたのはZだ!
Zくん:Yだってこの前、悪口言ってきたじゃないか! 
             それに最初に叩いてきたのはYだ。
Yくん:この前はZがいけないことをしたから注意しただけだ。
             それに最初に叩いたのは僕だけれど1回しか叩いてない。
              でも、Zは   3回も叩いてきた!
Zくん:Yの1回すごく強く叩いてきて痛かった。
             こっちはやさしく3回叩いただけだ!

 このような場面で犯人探しをすることは意味がないことでしょう。それよりもこれからどうすればけんかをせず仲良く過ごせるかを考える方がはるかに有意義です。

 前述の【エピソード1】でも、「この人は認知症だから××なんだ」といった見方はしません。あくまで、「話が長い(そのため、他の仕事がはかどらない)」という問題に対して、シンプルに介入しています。【エピソード3】でも、飛び散らかす子どもたちの性格とか親のしつけなどを問題視するとややこしくなり、対策も長期戦になります。「どうすれば汚さず用を足せるか」だけを考えることが大事です。

 犯人探し・原因探しをしないという考え方を端的に示しているのが、被治療者に対する「IP(identified patient:患者とみなされた人)」という表現です。その人が悪いのではなく、その人を取り巻く「相互作用」によって問題が作り上げられていると考えるのです。ちなみに、クライアントという言葉も使いますが、クライアントは来談者(相談者)のことを指します。例えば、子どもの引きこもりについて両親が相談に来た場合、IPは子ども、クライアントが両親となります。

②禁止ではなく、新たな行動を提案する

 私たちが、ある行為をやめるためには、別の行為をするしかありません。例えば、座ることを止めるには、立ちあがる・寝転がるなどの、別の行為が必要なのです。ところが、私たちはどうしても「やめなさい!」と繰り返し伝えるなど、直接止めさせるように働きかけてしまいます。多くの場合は「やめなさい!」という働きかけで自然と他の行動がとられ、うまくいきます。前述の【エピソード1】であれば、「その話はさっきも聞いたからもういいですよ」と止めることで「あぁ、そうか。すまんすまん」と笑ってすむ場合も多いでしょう。しかし、問題になるときは、この「やめなさい!」という働きかけが問題を長期化させる動力になっているのです(ブリーフセラピーでは、この働きかけを“偽解決”や“解決努力”とよび、長期化している状況を“悪循環”とよびます)。

 【エピソード1】では、Aさんの繰り返す同じ話に対して「その話はさっきも聞いたからもういいですよ」では解決しなかったのでしょう。そこで、インタビュー(それもAさんに合った口調で)を行いました。【エピソード3】では「トイレを汚すな」ではなく、きれいに使えるようにマークなどを工夫しました。他にも男子トイレには「1歩前に」といった貼り紙もよく目にします。これも、「汚すな」という禁止ではない新たな行動の提案の例です。このように、問題を解決するためには新たな行動への誘いが必要なのです。

③相手の変化を促すために、先にこちらが変化する

 課題を解決する際に「相手に悔い改めてもらう必要がある」「相手が自分で気づくのを待つ」といった考えを抱きがちです。かくいう私も「どうしてわかってくれないんだ」と思うときはよくあります。この時に、相手の変化をただ待つのでは時間がかかりますし、「相手が変わるか変わらないか」の賭けの状態になってしまいます

 相手が変わらざるをえないように、こちらが変わることが大事です(このように、誰かの振る舞いが変わることで他の人の振る舞いに変化が生じることを、ブリーフセラピーでは「相互拘束」と呼びます)。

④大げさな準備よりも、できるだけ小さく試みる

 【エピソード1】では、わざわざ、マイクを準備したり、タイミングを見計らう必要はなくいつでもできる介入でした。【エピソード2】のお片付け競争も、運動会という競争が当たり前の“状況”を利用して、片付けも競争にしたのです(ブリーフセラピーでは、“状況”を「コンテクスト(文脈)」といいます)。

 準備不要で小さく試みるのは、問題解決をしやすくするためにほかなりません。一方で、あえて問題になっている事象についてしっかり準備をしてもらい大げさに試みてもらうことで、これまでの問題行動を消去するという方法もあります(これを、「過重課題」などといいます)。

誰でもできるブリーフセラピー

 さて、連載第1回目、いかがだったでしょうか。

 今回は、ブリーフセラピーというのは特別なものではなく、誰でもできて、すでに「ブリーフセラピーらしい」ことが日常にはたくさんあることを紹介しました。その上で、「ブリーフセラピーらしさ」として、4つの視点を紹介しました。

 次回からは、よりブリーフセラピーを身近に感じていただけるように、なるべくわかりやすく書いていきたいと思います。まずは、ブリーフセラピーに不可欠なまさに空気のような存在である「相互作用」について、研究施設に侵入するカラスを撃退した事例を通して理解したいと思います。

 その後は、「相互作用」の中でどうやって問題を見立てて、改善していくか見ていきましょう。私の実際の事例を参考に、「相互作用」からスタートして捉え方を1つずつ紹介していきます。そのあとに、実際の日常や臨床場面で行かせる質問技法について紹介していきます。同時にブリーフセラピー/家族療法で使われる専門用語なども連載の中で紹介したいと思います。

 なお、いうまでもなく、この連載で紹介するカウンセリング事例はすべてクライアントに許可を取った事例を元にアレンジをしたものです。

 連載自体も「相互作用」を重視したいと考えております。つきましては、質問やご意見などがあればぜひお聞かせください。できる限り参考にさせていただきます。

※筆者の会社のサイトに本連載の質問フォームを作成しました!→こちら

 1人でも多くの人にブリーフセラピーに興味を持っていただいたり、すでに行われているさまざまな工夫についてブリーフセラピーの視点から「なるほど、そういうことか」「だったら、次はこうしよう」などと、考えていただくきっかけになれば幸いです。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。


▼合同会社ぜんと公式ホームページ

▼著書


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