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「先生、この学校は大変ですよ…。」そんな学校に笑顔をもたらしたグループワークとは?

書籍の序文をまるっと無料公開シリーズ vol. 3

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グループワークで教室が変わる!

 学級運営においては,一筋縄ではいかないさまざまな課題や問題があります。その中でも特に,子どもたちの心の問題が無視できないのではないでしょうか。
 他者とのコミュニケーションがうまくとれなかったり,自分の気持ちを表現できなかったり,人間関係に悩んだり…。これらの問題は現場の先生が肌で強く感じていることと思います。
 本書はグループワークで子どもたちの心にアプローチし,子どもたちの心が育ち,子どもたちに笑顔になってもらうために書かれた一冊です。

 いま,世の中にはたくさんのグループワークが溢れています。そのため,いったいどれを選べば効果的で,どれを選べば子どもたちのためになるのか,混乱されるかもしれません。本書では,ワークが実際に子どもたちにどんな効果を及ぼしているのか,本当に時代に合ったものなのか,イチから改めて考えなおし,グループワークが持つ力を整理して新しい考えを提案していきます。本書をお読みいただければ,「グループワークを空き時間の埋め草にするにはもったいない!」と思ってもらえるでしょう。

 本書で紹介するグループワークは楽しいだけでなく,学びがあります。本書ではそのグループワークを合計72本,掲載しています。いずれもイラスト付きで,説明もやさしく書かれています。わかりやすさを重視し,忙しい先生でも実施できるワークを厳選しました。

 グループワークのほか,これまでのグループワークの変遷や子どもたちを取り巻く時代背景をやさしく解説しており,より一層子どもたちの理解に役立ちます。さらにグループワークの実践例も収録。実践例では子どもたちがどんな反応を示し,そのときファシリテーターがなにを思ってどう行動したか,時間軸と並行して進んでいく構成にしました。一筋縄ではいかないときもあるグループワークですが,実践例があることでより自信を持って授業で展開できることでしょう。

【本書の特長】
子どもたちの心の成長を促す楽しいグループワークをイラストと共に紹介!
<かかわる><理解する><表現する>の3つのカテゴリーに分けた72の楽しいグループワーク。道徳,特別活動,ロングホームルームなどで使えます。
中学・高校・特別支援学校などの現場での活用実践例も具体的に紹介。
指導の幅が広がるお勧めの一冊です!

それでは,「はじめに」を公開です!

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はじめに

 「先生,この学校は大変ですよ。でも,この学校でできたことは日本中どこへ行ってもできます。」

 今から10年ほど前,Y高校で学校設定科目のグループワーク(心理学)の授業を担当することになったとき,同僚となる先生から初日に言われた言葉です。

 その言葉に,「はあ」と答えながらうなずいていた私は,その言葉の意味するところを半分程度しか理解していなかったと後で気づきました。その学校は,小・中学校時代に不登校やいじめなどのさまざまな困難を経験していたり,発達障害があったり,複雑な家庭環境にあったりと,一般的な学校では修学が困難な子どもたちが多く通っているいわゆるフレックススクールと呼ばれる単位制・3部制の定時制高校でした。

 当初は授業担当にあまり乗り気でなかった私でしたが,校長先生の「どうしても」という要請に「1年間だけ」という条件付きで授業を引き受けることにしたのです。授業は,開始当初からグループワーク,それもゲーム形式の楽しいもの,と決めており,校長先生の了解もとってありました。楽しい授業の中に,学びの要素を盛り込んでいけば,子どもたちは喜ぶはずだし,授業もうまくいくだろうと考えていたのです。

 しかし,授業を開始してすぐ,さまざまな困難に直面しました。授業をしようとしても生徒たちの反応は今ひとつで,期待したように授業に参加してくれない生徒や参加してもこちらの期待とは異なる反応をする生徒などが少なくなかったのです。

 多くの生徒たちは,他者とかかわりながら進められる授業に対して,さまざまなとまどいや多くの抵抗を示していたのです。そもそも元不登校児が多かったことを考えると,この反応は当然といえば当然でした。生徒たちは他者とのかかわりに少なからぬ困難を抱えており,他者とのかかわりの経験もあまりもっていなかったのです。いろいろ試行錯誤をしながら,毎週1回の授業がようやく軌道に乗るようになったのは夏近くになってからでした。夏休み明けからは,なんとか授業もうまく進むようになり,翌年3月には一応の達成感をもって一年間の授業を終えることができました。

 とは言うものの,終わってみると「もっとああすればよかった,こうすることもできたのに」という後悔の念が沸き起こってきました。「もう1年やらせてください」というお願いを校長先生に快諾していただき,授業をさらに続けるチャンスをいただき,結果的に3年間にわたって授業を続けることができました。

 その間,私が生徒たちから学んだことは,彼らの心を大切にして授業を進めることがいかに大切か,ということです。言い換えると,子どもたちの心への配慮です。多くの子どもたちが,他者とのかかわりに苦手意識をもつ中で,どのようにしたら子どもたちがその活動を受け入れ,そしてその中から学びを見つけてくれるのか,といったことを日々考え,さまざまな試行錯誤を経て,少しずつ授業スタイルを作り上げていきました。

 その後,小学校,中学校,特別支援学校などからも授業の依頼をいただき,さまざまなアレンジを加えながら授業実践を続けて現在に至っています。「この学校は大変だけど,ここでできたことはどこへ行ってもできますよ」という言葉の意味を今にして再びかみしめています。

 また,上記の授業実践とは別に,それに先だって茨城県教育研修センターの研究活動に関わらせていただいたことも非常に重要な体験でした。多くの熱心な先生方が集まって学校で実践できるグループワークについての研究をされており,そこに助言者という立場で関わらせていただきました。そこで構成的グループ・エンカウンター,グループワーク・トレーニング,SST,インプロなどの活動を学校現場でどう活用するのか,ということについて研究を進め,非常に有意義な取り組みだったと思います。

 しかし,構成的グループ・エンカウンター,グループワーク・トレーニング,SST,インプロはそれぞれ異なる原理に立脚している活動です。子どもたちの幸せを考えるとさまざまな活動を折衷的に取り入れることが理にかなっているのは分かるのですが,一方で理論的立場の異なる活動を寄せ集め,形式的に組み合わせて実施することが,どれだけ子どもたちの心の成長に実質的な効果をもつかということについての疑問の念があったことも事実です。

 私自身,ベーシック・エンカウンターグループから,構成的グループ・エンカウンター,グループワーク・トレーニング,インプロ,プレイバック・シアター,サイコドラマなどのさまざまなグループアプローチ諸技法に関わってくる中で,それらの間にどう折り合いをつけるかということに頭を悩ませてきたのですが,その中で,構成的グループ・エンカウンター,グループワーク・トレーニング,インプロなどの特に学校現場での活用に適した諸活動については,それらを,かかわる活動,理解する活動,表現する活動の3つのカテゴリーに集約することができそうだ,という考えが2014年頃,私の頭の中に浮かんできました。そして,さらにもう少し考えていくと,かかわる活動の傘の下に理解する活動と表現する活動を収めることができそうだという考えに至りました(本書,p.43)。

3つの基本コンセプト

 当時,世の中ではタッチパネル型のスマートフォンが急速に普及していました。スマートフォンの素晴らしいところは,一台のスマートフォンの中に,電話,カメラ,インターネット端末,音楽プレイヤー,ゲーム機などのさまざまな機能が収められていることです。一台あれば事足りるというところがスマートフォンの大きな特長です。私は,さまざまなグループワークの諸機能も,かかわる,理解する,表現するという3つの機能を包括した1つの概念の元に統合すること(integrated)で,その活用の可能性が大きく広がるのではないかと考えました。

 また,そもそも,グループワークは参加者相互のかかわり(interaction)によって成り立っています。加えて,経済成長が終わり,先が見通せない今日の状況においては,せめて楽しく(interesting)なければやっていられないという側面があり,かつ,教育現場としては楽しければそれでいいというものではなく,どこかに学びの側面(instructive)が必要だという背反的な状況があります。こうしてみると,今,求められていることはすべて「i(アイ)」というキーワードの元に括ることができるのではないかと考えました。

 本書は,「i」で始まるキーコンセプトで括られるグループワークであるi-Workを提案したいと思います。
 現代社会はめまぐるしくその様相が変貌し,現代の子どもたちはその中でさまざまな心理的困難を抱えて生きています。そして,学校の先生方をはじめとする多くの関係者は,日々,対応に苦慮されながら,子どもたちと子どもたちの心に向き合っています。私は,本書をそのような関係者の方々への応援歌になれば,という思いで書きました。

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 第1章から第5章においては,私があちこちの研修会でお話ししてきたグループワークについての解説を行い,第6章においては,楽しく実践できて,そして学びのあるさまざまなワークを紹介しています。また,第7章では実際の学校現場等で行った継続的な活動の実際について紹介しています。本書で紹介する各種のワークは小学校高学年から中学校,高校の子どもたちに向けてアレンジされています。しかしそれだけでなく,大学生をはじめとする社会人に適用することもできますし,内容を選択すれば,小学校低学年の子どもたちから特別支援学校の子どもたちにも適用することもできます。

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 グループワークは,多様な可能性を秘めたアプローチです。そして学校は多くの人々が集まる場所です。そこに多くの人々がいるということは,大きな潜在的な可能性がそこにあるということです。グループワークを適切な形で活用し,人々の中にある潜在的な力を建設的な形で取り出すことができれば,学校はより笑顔が溢れる,人々に幸せをもたらす場所になります。

 学校は勉強をするところですが,同時に子どもたちが人間として成長する場所でもあります。本書を活用することが,そのような子どもたちの成長の一助となれば望外の喜びです。

 この本によって,学校現場にさらに多くの子どもたちの笑顔があふれ,その子どもたちの心の中にさまざまな学びが広がっていくことを願っています。

正保春彦

目次

第1章 現代の子どもたちを取り巻く状況
第2章 学校で活用されるグループワーク
第3章 グループワークにおける学び
第4章 心を育てるグループワークとは
第5章 グループワークの進め方
第6章 心を育てるグループワーク i-Work
第7章 さまざまな実践
第8章 計画的な実践

著者について

正保春彦(しょうぼ・はるひこ)
1958年,富山県生まれ。
早稲田大学第一文学部卒。筑波大学大学院博士課程心理学研究科単位取得退学。
明海大学助教授を経て,茨城大学大学院教育学研究科教授。
元茨城大学教育学部附属特別支援学校長。元茨城県立高校非常勤講師。
専門分野は臨床心理学,グループ・アプローチ。
臨床心理士,公認心理師。