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「気になる子」を持つ親や家族への支援(ズバッと解決ファイルV3より)

弊社の好評書である『ズバッと解決ファイルV3』から一部を無料で公開しています。本書は対談を通して、各領域の第一人者から支援のワザとコツを学べる一冊です。
この記事では、阿部利彦先生と井上雅彦先生との対談の一部を公開。大切なエッセンスが詰まった対談内容と、その臨場感をあなたもぜひ体感してください。では、以下から本文スタートです!

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発達が気になる子のことを保護者にどう伝えていくか?

阿部 私も巡回相談で幼稚園・保育園を回り、先生方からの相談を受ける機会がたくさんありますが、かなり発達的な視点をお持ちの先生が増えてきている印象はあります。その中で「発達が気になる子のことを保護者にどう伝えていくか」というのは悩みどころです。

井上 以前、大学院生と「幼稚園・保育園の先生は保護者とのコミュニケーションでどんなところに困難性を感じるか」ということについてインタビュー調査しました。すると、多くの先生が、支援者は子どもの発達の遅れに気づいているが、保護者側の気づきが乏しい場合にそれを保護者にどう伝えるかというところに難しさを感じているということが示されました。また、それを園の中で共有しようと同僚に相談した時「あなたの指導の仕方が悪いだけじゃないの」と言われるんじゃないか、とか。つまり、このような未診断ではあるが支援ニーズのある事例については保護者との関係だけでなく、その子自身に対する支援、同僚との連携など他の要素もからんで悩んでしまうというケースが多いように思います。

阿部 障害のあるお子さんだけでなく、保護者と関わることについて学ぶ機会はあるのでしょうか。

井上 そう。例えば「保護者とのコミュニケーション」については、保育士や幼稚園教諭になる前には学ぶ機会は少ないと思います。さらに、園内での連携体制や外部の専門機関と連携を取れるようなネットワークを知っておかないと、内部とも外部とも相談できず、先生たち自身が抱え込んでしまい、トラブルが起こったときに、自分だけを責めてしまうことも多いといいます。

阿部 養成課程の講義、実習の中で発達障害に関して保護者対応や連携も含めて学ぶシステムが必要でしょうね。

井上 私の場合、保育所や幼稚園の先生向けの研修会、養成課程の講義の中でペアレント・メンター(後述)をしている保護者の方にお子さんの幼稚園時代にどんなことがあったか、どんな先生方の支援が助けになったか、などの体験を話してもらっています。

阿部 でも基本的に、現在多くの大学の授業の中で保護者との関わりを学ぶことはないし、連携の仕方について教わってないですよね。

井上 そういう講義は特に職場の先輩たちは受けていないですね。発達障害児の支援や保護者支援、連携について学んだ学生たちが非常勤で採用され、加配担当として配置されたとしても、ベテランの常勤の先生方との関係で、若い加配の先生はなかなか思ったように動けない。子どもに気をつかい、保護者に気をつかい、同僚に気をつかい、ヘトヘトになってしまっている場合も多いように思います。

阿部 若い人が勉強していても、管理職や先輩が知識をもっていないとつらいですね。

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井上 「こうしてはどうか?」というような提案を若い先生方からできるような職場環境も必要だと思います。研修についても、一人の先生だけに研修を受けてもらうのではなくて、園全体に対するアプローチができればと思います。各園から受講者を一人ずつ出してくださいという研修が多いわけですが、そうすると若い方を参加させようとする園が多くなります。ある地域の研修では半分以上が非常勤の若い先生で、次の年はその半分以上がやめてしまっている。もういなくなっているという……。そこで、別のある地域では主任クラス、副園長以上の立場の方を集めた連続の研修会をさせてもらいました。すると受講生は幹部で残っていきますし、園全体でのマネジメントもできるようになる。特別支援教育や親への関わりに関する知識、困った行動に関する見方、事例検討の仕方とか連携に関するノウハウなどを管理職が研修の中で学び、受講した管理職が自ら各職員に教えていく方が効率的で、支援が広がりますよね。私が支援に入ったある園では、管理職も一緒に園全体での研修を連続して行いました。年間で五回くらい行いましたが、その園では、先生方自らが自発的に事例検討会をするようになって園全体で問題解決していこうという風土が根付いていきました。

阿部 専門機関の人たちが個々の先生方に対してと、園全体へと、どうアプローチしていくか、を検討するべきだと思います。

井上 そうですね。阿部先生も巡回相談で感じられると思いますが、こちらの伝えたいことがビビッとうまく伝わる園と、そうでない園とあるじゃないですか。何回行っても、毎年同じような説明をしているみたいなところ。

阿部 確かに。一、二人の先生が支援計画を立て、実行しても、次の年に引き継がれていなくて、というケースもありました。

井上 スタッフが流動的でマネジメントが不十分なところはそういうことがよく起きます。特に巡回相談の際には園全体の職員を園長先生がどうマネジメントしているか、というところに対しても評価し、アプローチすることも重要になってくると思います。

阿部 保護者面接の研修をする場合、メニューであるとか、こういうテーマで研修するとよいとか、井上先生のお考えはありますか?

井上 一つは、困っているときに自分で抱え込まないように、何かあったら相談する先、つまり安全弁みたいなものをもつということ。例えば先輩に話す、園長に話す、外部に相談する、また外部にどういう機関があるか、知識として学べることが重要だと思います。
 もう一つは、やはり保護者の生の声を聞く機会を作ることではないかと思います。

阿部 生の保護者の方々の体験に触れてもらうというのは、貴重な経験ですね。

井上 研修では講義もしますが、その中で障害受容の説明をしただけではやっぱりわかりませんよね。私の場合何人かのペアレント・メンターを研修にお招きし、知的障害の重いお子さんのメンターさん、ASD、ADHDのお子さんのメンターさんなど、数人で順番に振り返りながらお話ししていただいたりしています。

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ペアレント・メンターの取り組みについて

阿部 ペアレント・メンターについてもう少しうかがいたいのですが、やはりお子さんが大きくなって、子育てが一段落された方がなさるのでしょうか?

井上 そうですね。メンターの行う相談の原則として「ご自分のお子さんより大きいお子さんについての相談は受けない」というものがあります。三、四歳くらいのお子さんをおもちの方には、もう少し後でメンターになっていただく形にしています。
 就学のことを聞かれることも多いので、お子さんが小学校中学年以上になってからが良いと思います。また地域のメンター活動としては、メンターのお子さんの年齢がある程度ちらばっている方が相談のバリエーションが広がっていいようです。ペアレント・メンターの養成は五年に一回くらい実施しないと、成人のお子さんのメンターばかりになってしまう可能性もあります。

阿部 親の会の構造に似ていますね。ペアレント・メンターに限らず、相談員やカウンセラー自身が親である場合、ご自分の経験が染み出してしまって、客観性というか、うまく距離がとれないことがあります。転移、逆転移という点で心配もあるのですが、研修の中でも難しいところではないでしょうか。

井上 ペアレント・メンターの相談活動の特性については大きく二つあります。一つはペアレント・メンターには専門家がもっていないような「高い共感性」があるということ。打てば響くというか、同じ「大変だよね」という言葉もメンターが使うとその重みも違ってくる。共感のしやすさというか、手軽さも含めてです。専門家にアポをとって、専門機関に行くというのは一部の保護者の方にとってハードルが高く、勇気も必要になります。また「こんなこと聞いていいのかな」、っていう不安もあると思います。メンターは「共感性が高くて、身近にいてくれる支援者」ということだと思います。

阿部 なるほど。

井上 二つ目は生の実体験をもっているということです。阿部先生がおっしゃったように共感性の高さは諸刃の刃でプラスとマイナスの側面があります。自分のつらい思いをした経験、例えば、「保健師さんにこんなことを言われてしまって」とか「診断場面でこんなことがあって」という傷つき体験がある場合に、同じようなテーマについて相談を受けてフラッシュバックが生じたり、怒りがこみあげてきたり。一方で、過去の自分に対して感じている感情と同じように、相手に「何うじうじ泣いているの」と言ってしまったり。

阿部 そうならないために、養成研修の中で気を付けていることはありますか?

井上 まずはペアレント・メンターになろうとしている方に、相談活動の中でそういう感情が湧き起こる可能性があることを知っていただき、養成研修の中ではロールプレイを行います。そしてメンターによる相談は「アドバイス」ではなくて、相談者の話を「聴く」という役を主とすること、特に傾聴することの重要性を学んでもらいます。また、自分の体験は絶対的なものではなくて、時代や環境の違いがある中で、子どもの障害が同じだからといって同じ方法が有効とは限らないことも知ってもらいます。さまざまな情報提供についても、メンターから伝えた方がいいこともあれば、専門家から伝えた方がいい場合もあるので、「こうしなければいけない」とか「これをやらないでどうするの」みたいな押し付けではなくて、聞かれれば無理のないレベルで自分の体験を話すようにしてほしいということを伝えていますね。
 私の勤務している大学のある鳥取県では、八年くらい経験を積んできたベテランのペアレント・メンターが二人組で病院での相談を行っています。医師が診断後の情報提供に十分にフィードバック等の時間がとれない場合、ペアレント・メンターによる相談を紹介してもらいます。相談者は支援機関の情報や地元の情報をメンターから提供してもらうという試みです。
 私の「ペアレント・メンター相談」に関する理想のイメージは、メンターが二人組で相談を行うこのスタイルなんです。タイプの違うメンターがペアになる。一対一の面接だとメンター一人の経験がすべてですが、例えば、先輩メンターと後輩メンターの組み合わせでなど、ペアにすれば二人の異なった体験が聞けるのでよいと考えています。

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阿部 メンターが二人いらっしゃることで、互いに客観視できるところもあるでしょうね。

井上 研修を受け経験を積んでいるベテランメンターなので互いに制御し合えますね。メンターもご自分の経験にないことは話しにくいので、補い合っていけるという。メンターによる相談は我々専門家がやっている一対一のカウンセリングというよりは、ある程度複数のメンターで例えばミニグループで相談活動をする形がいいのかな、と。

阿部 相談する方もカウンセリングという固い感じでなくていいかもしれませんね。

井上 お茶でも飲みながらお話ししましょうよ、という感じの方が相談する人もリラックスできます。またメンターの派遣や、マッチングについてはコーディネーターが相談の内容や相手の状況によって適材適所の紹介や配置をしていきます。例えば女の子の親からの相談であれば、メンターも女の子を育てた経験がある方にお願いするとか、ペアリングがうまくいくようにです。専門機関による就学前の発達相談とはまた違う形で相談活動をしてもらっています。

阿部 やはり親の会と似ているところがありますね。

井上 私がペアレント・メンターを始めようと思ったのはいくつかのきっかけがあるんです。いろいろな地域の親の会と関わる中で、同じ障害の親同士だから理解しやすいのかと思ったら、そうとも言い切れないと感じました。毎日子どもから「死ね」とか「なんで産んだんだ」とか責められて苦しんでいる親に対して、「知的障害がなくてしゃべれるだけあなたのところはましだよ」と言ってしまう親がいたり。もちろん“励まし”のつもりで言われたのですが。親同士の相談の中で相談する人とされる人がお互いに傷つけたり、傷つけられたりということもあるという事実を知ったことが一つ。さらに、古くからある親の会組織では年金や手帳や制度のことなど多くの有用な情報を次の世代の親に継承していくような機能があったんですが、最近は、小さなサークルのような気軽な親の会も増えてきた反面、それらの親の会のメンバーは、年齢が近い親同士で構成されていて、そのままのメンバーで年代が上がっていくんですよね。だから、先輩から後輩の親への教育的機能だとか、親の会が組織的に地元の専門家や自治体などにコミットして働きかけたり、といったかつての親の会がもっていたメンター的な機能を、発揮しづらくなっていると感じたことがもう一つのきっかけです。

阿部 気軽で、話しやすい会だけれど、そこから次につながりにくい、と。

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井上 そういうバラバラの小さな親の会を例えば地域の発達障害者支援センターがすべて把握しているわけでもない。なので、ペアレント・メンター事業というものをプラットホームにして、それらの親の会の人たちに呼びかけてメンターの研修会を開くことで、親の会とセンターがつながっていく。発達障害者支援センターや行政の情報、例えば、A市ではこんな取り組みがありますよ、といった情報がスムーズに親の会に流れるようにしていく。親が勉強できる場を行政が提供できるような、当事者による当事者支援の仕組みを作っていきたいと思っています。

阿部 サービスについての知識がない場合と、サービスがあってもうまく利用できない場合もありますが、そういう親を支える仕組みにもなりますね。

井上 福祉制度については、ベテランのメンターがそういうサービスの使い勝手なんかも教えてくれます。さらに行政の方が地域で新たな支援サービスを作った場合、使いづらさがどこにあるかわからないので、メンターの方に聞くこともあります。

阿部 ユーザビリティですね。

井上 そうですね。ユーザーの視点ですね。行政も親の会も互いに「WIN・WIN」の関係になるといいですね。もしも、六・五%(文部科学省の調査研究協力者会議のいう、発達障害の疑いのある児童生徒の割合)のお子さんの親が一斉に専門機関に相談に来たとしたら、とても対応しきれないですよね。すべての支援が専門機関によって提供されるのではなく、「当事者による当事者のための支援」の仕組み作りが大切だと思います。また、地域には民政委員や児童指導員がいらっしゃいますけれど、発達障害のある子ども(疑いも含む)のいる家族にどう入っていったらいいかわからないという声もあります。例えばメンターとの三者連携の中で「見守り的な支援」をしていければと思っています。
 メンター養成研修の中では「私は傾聴が苦手だ」という方もおられます。しかし、「話すのは得意だ」ということになれば、例えば鳥取県だったら「あいサポート運動」(誰もが障がいの特性や困難性を理解しちょっとした手助けや配慮を実践しようという啓発運動)やさまざまな啓発活動があるのですが、そこの講師をしてもらう、ということも考えられます。教材を作るのがうまい人は支援ツール作成、グッズ作成の研修会の講師を担当してもらうこともできますね。

阿部 まさに適材適所ですね。

井上 「個別の支援ファイル」の作成に協力する、という活動もあります。支援ファイルを親が一人で作るのは大変なので、一緒に作成をお手伝いするとか。「サポートブックを作る会」を主催してもらったり。カウンセラー的な人だけで構成してしまうと、逆にメンターの活動自体限定されてきてしまうのです。それぞれのメンターに自分自身の得意なところに気づいてもらって、お互い苦手なところは工夫したり補いあいながらやっていきましょう、という感じですね。

阿部 メンター活動にもいろいろなバリエーションがあるんですね。

井上 地域で孤立してしまう家族をなるべく少なくしたいという思いがあるのでバリエーションは大切ですね。

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いかがだったでしょうか。『ズバッと解決ファイルV3』から一部を紹介いたしました。新しい発見や、なるほど!という納得感があったのではないでしょうか。
書籍ではこの続きはもちろん、全11名もの支援の達人たちが惜しみなくそのポイントを伝授。ワザとコツが詰まった贅沢な本書を、ぜひお手に取っていただければ幸いです。

プロフィール

阿部利彦(あべ・としひこ)*編著者
星槎大学大学院教育実践研究科教授。
専門は特別支援教育、教育のユニバーサルデザイン、発達につまずきのある子の魅力やサポート法について、講演会・教員研修に全国を飛び回る。
井上雅彦(いのうえ・まさひこ)*著者(第7章)
鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座教授。
応用行動分析学や臨床心理学、障害児心理学を専門とし、心身に障害のある人たちの支援を理論と実践の双方向から取り組む。

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