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子どものSOSサインとしての問題行動の理解と対応(本田恵子:早稲田大学教育学部教授)#子どもたちのためにこれからできること

子どもも親も家にいることが増え、会話の機会が増えると共に、いさかいが起きる機会も、多くなってしまった家庭があるのではないでしょうか。保護者として、言わなければならないことはある。でも、またトゲトゲした会話をするかと思うと、気が重い。これからの親子の会話で、どのような工夫ができるのか。早稲田大学教授の本田恵子先生にお書きいただきました。

子どもとの会話は、なぜすれ違うのか?

 子どもが自我を持つようになると会話がすれ違うことが増えてきます。子どもとしても「言いたいこと」はあるようですが、「適切に表現できない」または、「あえて表現しない」ようになるため、親にとっては見えない部分ができるからです。反発はしたいけれど、すべてを自分でできるわけではなく、突然親を頼ってきます。その表現が「命令口調」だったり、「なんで~をしてくれないんだよ」という批判口調だったりするため、親は助けてあげたくても「その前に、少しは勉強したら?」と余計な一言を加えてしまい、関係が悪化しがちです。コロナ感染対策のために、休校が長引いたり在宅での仕事が増えて親子で過ごす時間が増えたりするにつれて、生活時間や価値観がかみ合わずストレスがたまり始めました。話そうと思っても、コミュニケーションがかみ合わずに余計に関係が悪化して家の中がなんとなくとげとげしているという方は多いのではないでしょうか。本稿では、子どもの行動の元になっている「欲求」をどのように理解して適切に対応することができるかをいっしょに考えてみましょう。

 すれ違いがなぜ生じるのか、図1を見てください。子どもが自分の気持ちや欲求を適切に表現できれば、親は見たまま、聞いたまま理解できます。親も素直に自分の気持ちや欲求を返すので、お互いにストレスが少ない状態で誤解もありません。一方、子どもがうまく伝えられず、親が見たまま、聞いたままを理解すると「怒っている」「すねている」「ゲームばかりしている」と誤った翻訳をしてしまいます。親が、自分の気持ちや欲求がわかっていれば、たとえ子どもが不適切な表現をしても自分の気持ちや欲求を適切に表現できるのですが、親もわかっていない場合は、お互いに売り言葉に買い言葉になり会話は決裂してしまいます。以下の例で考えてみましょう。

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図1  コミュニケーションの流れ

 まずは、翻訳を誤ってしまった場面です。

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状況
 夜のゲーム時間は10時までと言ってある。宿題や入浴を済ませて、遅くとも11時には就寝するように伝えてある(親から一方的にではあるが、子どもは「わかった」と言っている)。ある日、学校から帰るなり「今日はゲームで大会があるから夜中までかかるよ」と言い出した。

 母「聞いてないわよ」、子「今言った」、母「ゲームは、10時までっていう約束だよね」、子「これは、オレの金で買ったんだから、いつやるかはオレが決める権利がある」。母が話をしようとしても、自分の部屋に入ってしまった。こうなると話にならないので、その日は夜中までやることを止めずにいたら、明け方には寝ていた。朝は、学校に行ったので、本人が学校に行っている間にゲーム機を部屋から持って行った。

 子どもが学校から帰ってきて、ゲーム機がないのに気づいて母親のところにやってきた。子「返せよ。」、母「今日はもうできません」、子「返せよ」、母「昨日約束破ったんだから……」、子「約束なんてしてないだろ。そっちが一方的に決めただけじゃないか」、母「今日は、ダメです」、子どもが、タンスや引き出しなどを開けてゲーム機を探し始めた。書類や服などが散乱し始める。母「ちょっと、やめてよ」、子どもは怒った様子であちこち探しているが見つからないので、母のところに向かってきた。目つきが厳しくなっている。

 子「返せよ。オレのだろ」、母はここで屈してはならないと思って「そんなに我慢できないなんて、ゲーム依存症になってるんじゃないの?」、というと子どもがドンっと机の脚を蹴ったので驚いて立ち止まると、子どもはイスに座ってスマホでゲームをし始めた。母「ちょっと、何やってんの」とスマホをやめさせようと手を伸ばすと、子「うるさい」と机をバンッと叩いた。刺激してはまずいので、そのままにして母は部屋を出た。

 結局その日は、夜中までスマホをやっていたが、翌朝は学校に行った。

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母による、子どもの行動の解読
 母は、子どもの行動を「ゲームがやめられず、時間を守らず、親の話は聞かずに、キレると大声や暴力をふるう子」と解釈しました。さて、ほんとにそうでしょうか? 子どもの発信した内容をひとつづつ翻訳しなおしてみましょう。

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子ども側の欲求を視点を変えて解読した場合

子の発信1:「今日は、大会があるから、夜中までかかる」(時間外までやりたいことを交渉している。)
子の発信2:「今、言った」(無断でルール破りをするのではなく、後からではあるが伝えている。)
子の発信3:「いつやるかは、オレが決める権利がある」(自分で自立したい希望を伝えている。)
子の発信4:荒れたり言い争いをせず、部屋に移動した。(ストレスマネージメントができている)
子の発信5:寝不足だが学校に行った。(自分の責任は果たしている)
子の発信6:「返せよ」(まず母親に話しかけている。)
子の発信7:「約束はしてない。そっちが一方的に決めた」と、一方的に決められたことに対して抗議をしている。これまでの発信を合わせると、自分の意思や自立を認めてほしいと伝えている。
子の発信8:タンスや引き出しを開けて探し始めた。(親に頼らず自力で何とかしようとしている。)
子の発信9:イスに座って、スマホを触り始めた。(代替えのものに修正して、気分転換しようとしている)
子の発信10:テーブルの脚を蹴る。(親を黙らせる手段として大きな音を出しているが、親には暴力をふるっていないし、暴言もしていない。次のテーブルを叩くのも同様。)
子の発信11:ゲーム機は、親に預けたままで代替えの行動で気分転換をした上で、学校には行った。

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正しく解読し、子どもの気持ちを受け止めてから、子どもに適切な行動に変えてもらう場合の対話の進め方
 子どもの気持ちを受け止めて、欲求を正確に解読してから適切な行動に変容してもらうためには、以下のようにします。相手が主張したら、言葉でも行動でも「~ということがいいたいの?」「そうなんだ」と内容を繰り返して気持ちを受け止めます。ここで大切なのは、欲求を受け止めるのではなく、言い分を黙って聞くことで相手の気持ちを受け止めることです。次に、「あなたは、~ということがしたいのですか?」と欲求を明確に言葉にします。これが、相手が本当に伝えたいことだからです。ところが、興奮している相手は、親が言い返したと勘違いするので、また、同じことを主張してきます。親は、もう一度同じことをします。気持ちを受け止めて、欲求を明確に言葉にする。子どもは、「あれ?」と普段と違う様子に気づいて、話しに乗ってきます。そこでいったん話を止めます。

 この話し合いに入る前の準備段階が大切なのは、たいていここで、言い合いになってしまって、話し合いが始められなくなるためです。相手が土俵に乗っていないのに、親または子どもが一方的に言い分を発信して終わります。言ったほうは「伝えた」となり相手は「聞いてない」という状態が繰り返されることになります。

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図2 子どもの主張の受け止め方
(本田恵子「アンガーマネージメントPプログラム」2016より引用)

 遅くまでゲームをやりたいと言われた場面での、受け止め方の例 では、上記の方法を用いて、先の場面を言い換えてみましょう。

子「今日はゲームで大会があるから夜中までかかるよ」
母(繰り返します)「え? 大会があるの?」
子「そう。だから、夜中までやるから」
母(気持ちを受け止めます)「時間かかりそうなんだ。楽しみ?」
子「は?」(どうやら、翻訳を間違えたようです。こういう時は、素直に間違えた理由を説明します)
母「あ、ごめん。だって、そんな長い時間やるなら、楽しみなのかなって思ったんだ」
子「みんながやるからだよ。んなこともわかってないの?」(こちらが受け止めると、相手はからみにくくなる。説明も加えてくれた。どうやら、付き合いでやってるらしい)
母(くりかえします)「そうか、みんなやってるんだ。付き合い大変だね」
子「そ。だから、今日はご飯早くしてくれる?」
母「わかった。事情を話してくれたので今日はOKにします。お父さんにも事情は伝えないといけないから、今度からは、早目に言ってほしい」
子「わかった」
母「ありがと」

 ここで、「明日はできないよ」と言いたくなっても、言いません。それは、「あなたを信頼していません」というメッセージを伝えていることになるためです。子どもを信頼して自立して、自分の行動を制御できる力をつけたい場合は、見守ってできたところを認めること。誤った行動をしたときに、いっしょに客観的に振りかえる姿勢を示すことが大切になります。

執著者プロフィール

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本田恵子(ほんだ・けいこ)
早稲田大学教育学部教授。専門は学校心理学。子どもの行動を包括的にアセスメントし、具体的なIEP(個別教育プログラム)を立案して対応している。アンガーマネージメント、MI(多重知能)を活用した授業改善などを研究テーマとしている。アンガーマネージメント研究会代表。早稲田大学インクルーシブ教育学会会長。

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