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保護者も知りたい先生の「基本レシピ」。学習指導要領 ~授業のユニバーサルデザインの味をご家庭で②~(日本授業UD学会湘南支部+阿部利彦 星槎大学大学院 教授)

 「学習指導要領」という言葉、皆さんご存知かと思います。全国どこの先生方も、基本的に学習指導要領に沿った授業づくりをすることになっています。「全ての児童に対して確実に指導しなければならないもの」であり、それは、子どもたちが日本のどの地域にいても一定水準の教育を受けられるようにするためです。

 つまり、これがあるからこそ、先生方は様々な学年で、多岐にわたる教科単元の授業を一年を通して毎時間組み立てることができるわけです。

 しかし、これは先生への「しばり」ではありません。「必要がある場合には、各学校の判断により、学習指導要領に示していない内容を加えて指導することも可能である」とされているからです。

 学習指導要領というのは、平たく言ってしまうと、お料理の「基本レシピ」みたいなものだと思います。料理名や基本の食材と味付け、およその手順は共通であっても、授業をする先生の個性や工夫、経験あるいは地域性の違いで、味付けや見た目はさまざまに違ってきます。この、基本レシピのアレンジ力(りょく)こそが、先生の授業の腕の見せどころなのです。

 この「授業の達人」の技を、先生方にちょこっと伝授していただいて、子どもの家庭学習のサポートに活かせればと考えています。「授業UDの味(技)」、もちろんプロの味をそのままというわけにはいきませんが、その味を、少しでもご家庭にお届けしたい!と思います。

 あとはご家庭ごとにアレンジを加えていただき、「我が家風」にしていただければ幸いです。教室の授業で得られる深い学び、「できた」「わかった」に少しでも近いものを与えてあげたいですね。
(阿部利彦)

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――日本授業UD学会湘南支部 presents――

1)家庭でできない? 国語の学習!

 新型コロナウイルスへの対策として、多くの自治体で休校措置がとられています。休校中は、各学校から課題が配付され、家庭で学習を進めるように依頼があったのではないでしょうか。

 でも、難しいですよね。保護者の中からは、

・「1日どの程度の量の勉強をすればいいのかわからない。」
・「家庭学習で行う場合、先生の指導要領?みたいなのがほしい。どこがポイントなのかも不明。」
・「教科書を読んで主人公の気持ちを考えたりするのあるよね?そういうのどうやるの?」

といった声が聞こえてきます。(実際の声)

 確かに、算数のたし算やひき算などの計算技能や漢字の学習などは、経験をもとに保護者が教えることができるでしょう。
 国語の学習って、そうはいかないですよね。例えば、小学校1年生の国語の教科書にある「たぬきの糸車」では、何を勉強するのでしょうか? 子どもがただ読んだり、保護者が読み聞かせをしたりすればよいというわけではないですよね。

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 学校では、文部科学省が出している「学習指導要領」に基づいて、授業が展開されています。ですから、「何を教えるか」については、すべて学習指導要領に書かれているのです。
 でも、学習指導要領に書かれている内容は、教員以外の人が理解するのには、ちょっと難しいかもしれません。今回は、国語の学習の中でも、家庭で一番学習しにくいであろう「読むこと」について、「教員が家庭で我が子に教えるなら・・・」という視点でお伝えします。あくまでも一つの視点であり、絶対的なものではありません。

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「家庭でできる国語の学習~読むこと~」

2)何のために読む力を育てるの?

 例えば、大人が、文学作品を読む目的は何でしょうか。読書が好きで、暇さえあれば好きなジャンルの小説を読むという人もいるでしょう。読むことは苦手だけれど、映画をよく観るという人もいるでしょう。このように、大人は、余暇を楽しむときに文学作品と触れ合うことがよくあります。

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 では、なぜ人は小説を読んだり、映画を観たりするのでしょうか。一つには、日常ではありえない出来事も、作品を通して、登場人物に同化することにより、疑似的に体験できるということが考えられます。
 事件を解決する探偵ドラマやアニメを思い出してください。事件のきっかけがあり、解決に必要な伏線がしかけられています。事件が解決する場面(クライマックス)では、しかけられた伏線が再度登場し、すべてがつながることで解決に至ります。そして、事件解決後の様子を見ることで、観ている人には、すっきり感が残ります。
 次に、恋愛ドラマを思い描いてみてください。非日常的な出来事の世界に、主演の俳優さんを介して入り込み、共感しながら、疑似的に恋愛を体験することができます。その世界が、たとえ現実的なものでなくてもです。むしろ、現実的でないからこそ、楽しめるのかもしれません。

 国語の「読むこと」の学習では、こうした事件を解決する探偵ドラマや恋愛ドラマを楽しむ力を育てることだと考えてみてはどうでしょうか。

 ちなみに、「悲しい気持ちの場面の多くは雨が降っている」「犯人を追い詰める場面の多くは、崖である」というものも、登場人物の心情を場面の様子に表す作者のしかけの一種になっています。そういう見方をしていくのも、文学作品の楽しみ方の一つかもしれませんね。

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3)学校では、「何を」「どうすること」が目的?

 学校での授業の根拠となる「小学校学習指導要領解説国語編(文部科学省, 平成29年告示)」では、「読むこと」の指導事項(文学的な文章)を次のように構成しています。

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 「何を(ピンク)」、「どうすること(黄色)」が目的なのか、示されています。内容については、発達段階に合わせて、ステップアップしていきます。注目していただきたいのは、どの学年も共通して、「①構造と内容の把握」「②精査・解釈」「③考えの形成」「④共有」の4つの学習過程が示されていることです。

 これらを「育てようとしている力」として、次のように言い換えることができると考えます。

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4)もう少し具体的に見てみましょう

 これらを踏まえて、1年生、2年生の文学的な作品(物語文)の学習を家庭で取り組むとしたら、

①「誰が何をしたのかを正確にとらえる」
②「文章に書いていないことを想像する」
③「書いてあることについて、自分の経験と重ねて、気づいたこと(似ているところや違うところ)を家の人に伝える」
④「書いてある同じ部分について、家の人の考えを聞き、自分の考えとの違いに気付く」

といった具合になると考えられます。

 ①~④について、光村図書2年上「ふきのとう」を例に、もう少し具体的に考えてみます。

(1)「絵にかいてみて!」

 はじめに、①「誰が何をしたのかを正確にとらえる」について、具体的な教え方のアイデアを紹介します。
 「ふきのとう」の話を読んだ後に「絵にかいてみて!」と子どもに伝えます。読んだ内容を絵で表せたならば、内容をしっかりと理解できているということになるでしょう。

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 ここでは、登場人物の位置が大切になります。一番上から「お日さま」、「竹やぶ」、「雪」、一番下に「ふきのとう」といった順になるでしょう。登場位置が分かれば、ふきのとうがやっとの思いで顔を出した気持ちを想像しやすくなりますし、音読の仕方が変わってくると思います。
 きっと、初めに音読したときの「もっこり」と、ふきのとうの上にたくさんの登場人物がいて、やっとのことで顔を出せたことを理解して音読するときの「もっこり」とでは、読み方が変わってくるはずです。読み方が変わっていれば、お話の内容を正確にとらえたことで、読み取りが深まったということにもなるでしょう。

(2)「なぜ『もっこり』の読み方が変わったの?」

 次に、②「文章に書いていないことを想像する」についてです。
 「なぜ『もっこり』の読み方が変わったの?」と理由を尋ねます。すると、「だってさ、早く出たかったけど、なかなか出られなかったから…」と答えたとします。この気持ちは、本文のどこにも書いていません。書いていないことを想像することができたことになりますね。つまり、自分なりに想像を広げ、作品を味わったことになります。
 他にも、「はるかぜは、どんな気持ちだと思う?」などと聞くのもおススメします。「寝坊してごめんね」など、視点を変えて読むことができますし、相手の気持ちを考える基盤にもなります。

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(3)「ふきのとうみたいな気持ちになったことある?」

 その次に、③「書いてあることについて、自分の経験と重ねて、気づいたこと(似ているところや違うところ)を家の人に伝える」についてです。
 先程「だってさ、早く出たかったけど、なかなか出られなかったから…」と答えました。「ふきのとうみたいな気持ちになったことある?」と尋ねます。同じような経験をしたことや、その時の気持ちを聞き出し、似ているところや違うところを一緒に考えます。

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 これが、書いてあることについて、自分の経験と重ねるということです。もしかしたら、「雨が続いて、ずっと外で遊べなかったことがあったの。やっと外に出たときに、とても気持ちよくて、うれしかったから、ふきのとうも同じ気持ちなんじゃないかな」という答えが返ってくるかもしれません。

(4)「〇〇ちゃんは、そう考えたんだ!ママ(パパ)はね、、、、、って、考えたんだよ!」

 最後に、④「書いてある同じ部分について、家の人の考えを聞き、自分の考えとの違いに気付く」についてです。
 子どもは、自分なりに読み取ったことを音読として表現したわけです。ここで、同じ文について、家の人が音読します。そこで、なぜその音読の仕方になったのか、「〇〇ちゃんは、そう考えたんだ!ママ(パパ)はね、、、、、って、考えたんだよ!」と、子どもに話します。すると、同じ文なのに、感じ方が違うことに気づき、「そういう読み方もあるのか」や「自分の読み方の方がふきのとうの気持ちに合っている」など、比べることで自分の読み取り方を深めることができるのです。

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 ここで大切なのは、まず子どもの読み取りを受け止めて共感し、肯定してから、大人の読み取りを伝えることです。これをしないと、子どもは、自分の考えを大人に修正されたと勘違いし、自信を失くしていってしまいます。あくまでも、「自分の考え」については、すべての人が平等にもっていて良いものだということを保障しておきたいです。
 学校で学習する場合は、たくさんの友達の表現と自分の表現を比べることができますが、家庭では家族がその役割を果たしていただくことになるでしょう。

 こうしたことを繰り返し、学年が上がるごとに、物語を味わう力が育っていくことになります。気を付けたいのは、ただ物語の内容を理解することが目的ではなく、「読む力」を育てていくことを目的にするということです。ぜひ、上の学年につながるように、さらには余暇として小説を読んだり、映画を鑑賞したりするなど、将来の文学作品の楽しみ方を身につけられるように、ご家庭で国語の学習を進めてみてはいかがでしょうか。

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5)おわりに

 このような状況だからこそ、お子さんの成長を、つまり「できなかったことができるようになる瞬間」を味わっていただけたらうれしいです。普段、お子さんは学校で、一生懸命頑張り、成長し続けています。すべての子が、それぞれの成長をしています。その成長の瞬間をいつも間近で見ているのが、教員です。とても幸せな職業です。この休校期間は、それが見られず、とても残念です。
 しかし、その成長の瞬間をご家庭で見ていただけるチャンスだとも思っています。ぜひ、お子さんの成長の瞬間を見ていただき、たくさんほめてあげてください。

(執筆者プロフィール)

日本授業UD学会湘南支部
日本授業UD学会湘南支部は、「すべての子どもたちの笑顔あふれる学級創り」「すべての子どもたちの笑顔あふれる人間関係創り」「すべての子どもたちの笑顔あふれる授業創り」をコンセプトに神奈川県の湘南地区に拠点をもつ支部(HPより)。特別支援の理論や技術を取り入れた通常学級での授業の在り方、教育の在り方を追究している。

阿部利彦(あべとしひこ)

星槎大学大学院教育実践研究科教授 専門は特別支援教育、教育のユニバーサルデザイン、発達につまずきのある子の魅力やサポート法について、講演会・教員研修に全国を飛び回る。

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―― 連載第1弾――

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