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親子で楽しむ 教科書「家(いえ)読み」のすすめ/国語編 ~授業のユニバーサルデザインの味をご家庭で~① (阿部利彦 星槎大学大学院 教授)

休校が続き、お子様とご家庭で過ごす親御さんが増えています。

ご家庭内での学習について、皆様がお悩みだと思います。「こんな中だからこそ、お役立ちできる情報を出版社として提供できないだろうか」と思いました。

そこで弊社で好評の『ズバッと解決ファイル』シリーズを手掛けていただいた阿部利彦先生にご寄稿いただきました。

これから、今この状況下にある皆様に向けて、積極的に情報発信をさせて頂きます。その先駆け第一弾としての記事になります。ぜひご一読ください。

F4 ズバッとロゴ

1)授業受けてないし!
       国語って、家でどう教えたらいいの?


 全国各地で休校措置がとられている今、友だちや先生のいる学校に通えず、授業を受けられない子どもたち。保護者の皆さんはお子さまたちへの影響に不安を感じておられることと思います。

 また、たとえ休校措置が解除されたとしても、コロナ以前のような、先生と児童生徒が活発に意見交換したり、一緒に課題や実験に取り組んで交流したり、そんな活気のある授業を取り戻すことは当分ままならないかもしれません。今後は多くの学校で、授業や学習のオンライン化の整備が進んでいくことでしょう。

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 今までは、子どもたちが教室で先生の授業を受けていることが前提でした。私たち保護者は、それをなぞったり補ったりする形で子どもに教えてあげればよかったのです。しかし、それができない今、お子さんの家庭学習をどうサポートしてあげればいいのか、保護者の皆さんから戸惑いの声が多く寄せられてきています。お子さんが家庭で学ばなくてはいけない時間が増えていく中で、家庭学習に求められる質が、従来とは異なってきています。そこで、本企画では、家庭でお子さんの学習をサポートしたいとお考えの保護者の皆さんに、ちょっとした学習のアイデアをご紹介したいと思います。

 今回は「国語」をとりあげます。というのも、「どう教えたらいいの?」と他の教科よりも悩むことが多い教科だと思うからです。漢字学習や意味調べはともかく、とくに物語文については、「音読を繰り返せばいいの?」「全文書き写させようか」「暗記させる?」「感想文が書ければいいのかな」などと迷われているようです。

2)先生方は授業でどんな工夫をしているの?
「授業のユニバーサルデザイン」からもらえるヒント

 私は、大学院で発達障害のある子どもの支援について教えています。今まで、全国各地のたくさんの小中学校で、児童生徒の学び、先生や保護者の方々のサポートのお手伝いをさせていただきました。そんな中で、各地の先生方が子どもたちのためにさまざまな工夫を凝らした「おもしろい授業」に出会う機会も増えていきました。

 そして10年前に「授業のユニバーサルデザイン」というものに出会い、とりわけ桂 聖先生に出会ってからは、「こんなおもしろい授業があるのだ」「教科書ってよくできているものだなぁ」というたくさんの発見や感動をもらいました。

 ちなみに、授業のユニバーサルデザイン(以下 授業UD)とは「特別な支援が必要な子を含めて、通常学級の全員の子が、楽しく学び合い『わかる・できる』ことを目指す授業デザイン」のことです。

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 例えば、小学一年生の国語、アーノルド・ローベル作の「お手紙」についての授業で、桂先生は「もしお手紙を運ぶのをかたつむりくん以外の生き物に頼むなら、どんな生き物がいいかな?」と子どもたちにたずねます。実は、作者はお手紙を運ぶ役割をあえてかたつむりくんに設定しており、このかたつむりくんの存在が物語をより魅力的なものにしているのです。

 この問いかけは、単におもしろそうだから「他の生き物を考えてみよう」ということではありません。このストーリー展開で、かたつむりくんの存在にどんな意味があるのかについて子どもたちに気づいてもらうことが「読み」を深める「しかけ」になっているわけです。

 私は、「もし自分の子どもたちがまだ小さい頃にこの素敵な問いかけを知っていたら、我が子にも聞いてみたのになあ」と思いました。ただ、それは国語の学力向上のためというよりは、我が子の考えを味わってみたかったというシンプルな思いからなのですが…。

 さて、この問いかけ、お子さんが勉強机に向かっている時でなくてもいいのです。食事の時などに「いま『お手紙』の勉強やってるの? ああ、お父さんも1年の時勉強したなあ。あのお手紙を届けるひと、なんでかたつむりくんなんだろうね? もっと速く届けられる鳥さんとかに頼めばいいのにね」と話題にすることができます。

ローベル


 こんなふうに現場の先生方の授業の工夫にヒントをもらえば、家での教科書学習がより楽しく、深いものになると思うのです。

3)家庭でチャレンジしてみよう! 教科書「家(いえ)読み」のすすめ

 さて、物語文の単元には二つの学びがあると思います。一つめは書いてあることを正確に理解すること、二つめは本文には書いていないことを想像してみることです。

 低学年においては、書いてあることをきちんとおさえることがまずゴールになります。簡単そうでこれが意外に難しいことなのです。

 物語文を勉強するときのポイントの一つは、要約して誰かに内容を「語れる」ことです。これは、学校の先生方が授業で力点を置く部分でもあります。「いつ、どこで、誰が何をしたのか、正確にとらえる力を身につける」ということが学習指導要領にあり、先生方の指導目標となっているのです。

 とはいえ、授業じゃなく家庭で、保護者が「物語を要約する指導」をするのは難しいですよね。そこで、授業UDのテイストを加えた教科書の「家(いえ)読み」をご提案します。試してみて、もしお子さんがはまってくれた読み方があれば学習に取り入れてみてください。親にとってのいい点は先ほども述べましたように、「うちの子はこういう風に物語をとらえているんだ」「おもしろいアイデアだな」とその子の見方・考え方を味わえる、ということです。

 そして、学校と違って「正解でなくていい」「いろいろな考え方があっていい」と伝えられるのが家庭学習の強みです。クラスメイトに合わせる必要も、先生に対しての忖度もいらない学びが、家庭学習のよさなのです。

3-①ごっこ読み

 これは幼稚園・保育園でもよく行われている、お話を演じてみる読み方です。とくに小学校では、会話文(せりふ)と地(じ)の文(セリフ以外の文)をおさえる必要があります。先ほどの「お手紙」でしたら、かえるくんのせりふ、がまくんのせりふ、かたつむりくんのせりふ、地の文、に分かれて読んでみるのです。一人で登場人物を複数担当するときには、声色を使い分けてもよいでしょう。

ごっこ


 もしお子さんがはまってくれたら、冒頭の「ああ」とお話の終盤の「ああ」の言い方を考えてみて下さい。同じ「ああ」でもその時の気持ちはまったく異なるからです。この「ああ」の比較によって、お話の展開がより理解できるようになるはずです。

 さらに、高学年の場合でも、「誰のせりふか」を理解できていない子がいます。気持ちをこめて読ませる前に、各せりふが登場人物のうち誰のものかを、一緒に確認していきましょう。

 さて、自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんは、登場人物の気持ちを考えることが苦手だとよく言われます。たしかに「この時がまくんはどんな気持ちでしょう」という問いに、答えにくいお子さんがいます。ただ、ときどき、役になりきることは得意!というASDのお子さんに出会うこともあります。ですから「他者の気持ちを考えること」と「役になりきってせりふを言う力」とは別物と考えることができます。

 それでも、「せりふをどう読んだらいいかわからない」という時には、YouTubeなどで動画を探してみましょう。学校では「自分で考えるように」「先入観を与えないように」という指導が多いですが、お手本を見て真似してみることも勉強になるのです。こういうことができるのが、家庭学習の柔軟さです。


3-② 題名読み 

 これは、題名からお話を推測する、という楽しみ方です。例えば「モチモチの木」と聞いて、本文を読む前にお話を予想します。「おもちがはえている木なのかな」「葉っぱを食べるとモチモチしているのかも」「お腹がすいた主人公が食べられる木を探す話なのかな」とか。

 そして1枚だけ挿絵を見せて、さらに想像を膨らませていきます。読み進めていく中で、「この木は『とちもち』」の木なんだ」、とか「どうやら食べることもできるらしい」などとまたタイトルに戻ることもできます。

 「注文の多い料理店」だったらどうでしょう。最近の話なのか、場所は日本なのか、今だったらテイクアウトも始めたかも知れないな、などと予想してみます。予想してから読むことで、より「えっ」とか「あれ?」と違いを楽しむことができます。

 ただし、もし「注文の多い料理店知ってるよ!」「もう読んだことあるよ」とお子さんが言ってくれたら「どんなお話か教えて。昔習ったけど忘れちゃったんだ」などと聞いてみてください。

 詩などの場合では、題名を隠して読み、あとで題名を考えるという読み方もあります。

3-③ どっち(比較)読み

 教科書は、原著(絵本など)の挿絵を全て載せているわけではなく、場面によっては挿絵がカットされていることがあります。例えば、レオ・レオニの有名な「スイミー」では、スイミーが深い海の底で出会ういろいろな生き物の絵がばっさりカットされています。

 桂先生が提唱する国語の課題には「which型課題」というのがあります。スイミーだったら、教科書と絵本を比べて「どっちが好きか」を子どもに考えさせます。

 私が授業観察をさせていただいたある学校で、まさに教科書に載っていない生き物たちの重要性を先生に指摘してきた子がいました。その子は学校の図書館が大好きで、授業中教室を抜け出して本を読んでいるようなお子さんでした。その子の発見(教科書と絵本の違い)を当時の担任の先生がスイミーの授業に取り入れてくれたので、そのお子さんは授業に楽しく参加できるようになりました。

 このように、教科書版では原著と絵が違ったり、話が部分的にカットされていたり、もともとの話と結末が違うことさえあったりします。図書館などで原著を借りてきて比較してみると、違いを発見できます。こういう「違い」を見つけることは具体的なので、より多くのお子さんが取り組みやすいですし、どちらの結末が好きかというような話題を親子で楽しむことができます。この活動のよさは「どっちを選んでも正解」という安心感です。


3-④ 通販番組風読み

 物語文のポイントはまず要約ですから、「今日ご紹介するのは『たぬきの糸車』です。このお話は~」と、ストーリーを2、3分で楽しく説明できるようにします。通販番組で商品の魅力を言葉巧みに説明してくれる実演販売士さんがいますよね、あんな感じでやってみるのです。大人は視聴者として、話を興味深げに聞く役です。わからないことがあったら、質問してもいいでしょう。子どもは、好きな場面、好きなセリフ、おすすめポイントなど加えながら「人に伝える楽しさ」の基本を学びます。

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 この「たぬきの糸車」だと、子どもたちはどうしてもたぬきに着目してしまうのですが、実はおかみさんの気持ちの変化を読み取ることが読解の鍵になります。おかみさんの気持ちがおさえられているかどうかを確認しながら聞いてあげてください。

 子どもの中には「物語を味わおう」と言われても感覚的に読みとることが苦手な子もいます。「もっとしっかり読んで」と言うだけでなく、楽しい読み方のレパートリーを知ることで、「味わい方」が広がってくるでしょう。

 最後に、物語には、子どもたちにとって日常的にあまりなじみのないものや言葉が出てくることがあります。たとえば「糸車」です。これも家庭でならスマホやパソコンで検索してみる、場合によっては動画で動きを見てみる。そういう楽しみ方をしながら、タイムリーに言葉の理解をそろえることができるのも、家庭での読み方のよさなのです。(終)

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◇次回予告~授業のユニバーサルデザインの味をご家庭で~②

 さて次回からは、私の仲間である、授業UDを実践している現役の先生方が一肌脱いでくださいます。ふだん先生方が授業を組み立てる際に使っている学習指導要領についても、私たち保護者にわかりやすく説明してくれる予定です。家庭でできる、学習指導要領を踏まえた、子どもの学習サポートのヒント。どうぞお楽しみに。

(執筆者プロフィール)

阿部利彦 NHK DVD写真

阿部利彦(あべとしひこ)

星槎大学大学院教育実践研究科教授 専門は特別支援教育、教育のユニバーサルデザイン、発達につまずきのある子の魅力やサポート法について、講演会・教員研修に全国を飛び回る。

【連載記事はこちらからどうぞ】

――第2弾――

――第3弾――

――第4弾――

――第5弾――

<著書>


[参考文献]
⑴ 決定版! 授業のユニバーサルデザインと合理的配慮: 子どもたちが安心して学べる授業づくり・学級づくりのワザ/阿部利彦編著、金子書房、2017
⑵ 「Which型課題」の国語授業 「めあて」と「まとめ」の授業が変わる/桂 聖、N5国語授業力研究会、東洋館出版社、2018




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