「こころ」のための専門メディア 金子書房
【第11回】子どもへの関わり方を磨く(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方
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【第11回】子どもへの関わり方を磨く(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方

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 子どものSOSを聴き、受け止めるときには、「何を言うか」という言葉の内容だけではなく、「どのように言うか」という言い方や雰囲気も非常に大切です。ところで、人と人のコミュニケーションは、言葉として文字にすることができる言語的な要素と言葉にならない言葉以前の要素に分けて捉えることができます。言葉にならない言葉以前の要素とは、声の抑揚やトーン、質感、リズム、間、など文字として表現しづらい要素で、これはプレバーバルな要素と呼ばれます。このプレバーバルな要素が、心をサポートする基本であり、かつ主要部分だと言われています(神田橋、1990)。
 しかし、今までの連載の中ではプレバーバルな要素について触れることは、ほとんどできていませんでした。それは、言い方や雰囲気は文字として伝えることが十分にはできないからです。そこで、今回の連載では、プレバーバルな要素に気づき、それを生かしていくためのトレーニング方法について紹介します。

感情を五感で感じ取る

 この連載では、子どもの感情に目を向け、言葉として受け止めることが大切だということを何度も話題にしてきました。子どもの感情に気づき、言語化して受け止めるためには、大人が自分自身の感情に気づき、言葉として捉えることが必要だと考えられます。そこで、大人が自分自身の感情に目を向け、深く感じ取ることを目指したワークを紹介いたします。
 ところで、感情そのものは、プレバーバルなものです。神田橋(1990)で、感じる能力を育てる方法として紹介されている「五感イメージ・トレーニング」を少し改変して、自分自身の感情を対象として行う方法です。この方法を思いついて、まずは私自身が試してみました。自分自身の感情を深く感じ取ることにつながったように思いました。そこで、カウンセリング講座などで何度も実施してきたのですが、大変意義深い経験になると感じています。

 やっていただくことは単純なのですが、イメージする力や感じる力を総動員して、自分なりに感じ取っていただくことが大切です。ある1つの感情を定めて、その感情について五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を使って、改めて深く感じ取ってみるというものです。
 なお、感情は、悲しい、嬉しい、悔しい、辛い、嫌だ、嫌いだ、などの形容詞や形容動詞で表現されるものや、好む、喜ぶ、怒る、悲しむ、などの動詞で表現されるもの、怒り、悲しみ、恨み、などの名詞で表現されるものがあります。

 まず、ある感情をある人が五感で感じ取った結果をご紹介いたします。感情を五感で感じ取るということが、どういうことかつかんでいただきたいと思います。
 その感情は、視覚では、白なのですが、よく見るとうっすらと灰色がかっている白です。聴覚では、シャーッという音がかすかに聞こえてきます。嗅覚では、ほんのわずかにカルキのにおいがするような感じがします。味覚では、特に何も感じられません。触覚では、サラサラしている感覚です。
 いかがでしょうか? 感情を五感で感じ取るということが、どういうことか感じ取っていただけたでしょうか? さらに、もう1つの感情を五感で感じ取った結果もご紹介します。その感情は、視覚では、燃えるような赤です。聴覚では、爆弾が破裂するようなドカーンという大きな音です。嗅覚では、鉄の臭いのような無機質・金属質な臭いです。味覚では、非常に苦い味です。触覚では、ザラザラする感覚です。

 2つの感情が何かについては、後で解説します。こんなふうに、ご自身で感情を五感で感じ取ってみてください。その結果はメモしておいてください。なお、ご自身にとってなじみのある感情(時々感じることがある感情)を選んで分解してみることをおすすめします。1つ分解してみたら、次は「怒り」を分解してみてください。やはり、同じようにメモしておいてください。

 それでは、どうぞやってみてください。

 いかがでしょうか?
 どんなふうにやれば良いか分からなくて難しいと感じる人もいらっしゃるようです。繰り返し丁寧にやっていくことによって、少しずつ感情を感じ取る力が高まっていくと思いますので、時々思い出して何度かやってみてください。また、イメージが色々と湧いてきて楽しかったと感じる人もいらっしゃるようです。イメージをどんどん広げてしまうのではなく、その感情をしっかりと感じ取りピッタリとした表現にしていくように工夫してみてください。イメージを広げることが目的ではなく、自分自身の感情を的確に捉えることができるようになることが目的だからです。

 ところで、最初に紹介した五感で感じ取った感情は「孤独」で、次の感情は「怒り」です。「怒り」ついては、ご自分で感じ取っていただいた結果もあると思います。ぜひ、それと比較してみてください。似ているところもあるかもしれませんが、全く同じ結果になることはないと思います。実は、色々な人にやってもらったのですが、同じ結果になることはありませんでした。似ているところがあったとしても、細かいところに必ず違いがありました。
 比較のため、また別の方が「怒り」を五感で感じ取った結果を紹介しておきます。視覚では、深くて暗い黒です。聴覚では、低く鈍く響くゴーっという音です。嗅覚では、酸っぱいようなにおいです。味覚では、ヒリヒリと辛い味です。触覚では、ベトベトする感覚です。
 やはり、同じ「怒り」という感情を五感で感じ取ったとしても同じ結果にはならないのです。このことから、人が感じる感情は、同じ言葉で表現されているとしても、心の中で感じられる雰囲気や質感(つまりプレバーバルな要素)は、様々に違っていることが分かります。つまり、私の「怒り」と別の誰かの「怒り」は、文字では同じ「怒り」として表現されているのですが、プレバーバルな要素では色々と違いがあると言えるのです。このことから、子どもの感情を理解して受け止めるときには、相手の感情は自分の感情とは違うプレバーバルな要素を持っていることを前提としなくてはならないと言えます。自分の感情を当てはめて分かったつもりになるのではなく、相手の感情のプレバーバルな要素をしっかりと感じ取っていくことが大切なのです。

 ところで、感情を表す言葉は100種類以上あるとも言われます。様々な感情1つ1つについて、自分自身にとっての感覚を丁寧に確かめながら、五感で感じ取ってみることをお勧めします。また、家族や仲間同士で試してみることも1つの楽しみ方だと思います。同じ感情を五感で感じ取って、その結果を比べてみることも面白いと思います。五感で感じ取った結果だけを伝えて、クイズのように元の感情を当ててもらうことも面白いと思います。色々と試してみてください。

交互色彩分割法を使ってプレバーバルな関わりを体験する

 次に、プレバーバルな関わりを体験することを通して、子どもへの関わりを磨くようなワークを紹介します。様々なカウンセリングの場面で用いられている「交互色彩分割法」という芸術療法(描画療法)を応用したワークです。なお、元々の交互色彩分割法は、次のような方法で行われます。
 最初にカウンセラーが画用紙にフリーハンドで枠を描き、その枠の内側を分割するように、カウンセラーとクライエントが交代で枠から枠までの線を描きます。ある程度枠が区切られたら、今度は枠の中に出来た区画を1つずつ交互にクレヨンで塗って作品を完成させます。様々な領域のカウンセリング場面で活用されていますが、例えばスクールカウンセラーが子どもとのカウンセリングに活用した事例が報告されています(小嶋、2006)。

 交互色彩分割法を応用したワークでは、基本的なやり方は元々の方法と同じですが、1人が聴き手(大人役)、もう1人が話し手(子ども役)となります。クレヨンを使って好きな色で線を描くのですが、大切なことは、全く声を出さないで行うことです。聴き手、話し手としましたが、線を描くことを通して話しをするイメージで行います。つまり、プレバーバルな要素だけでコミュニケーションを行うのです。
 また、話し手(子ども役)は、イライラしている子ども、孤独感に苦しんでいる子どもなど、何らかのつらい気持ちを抱えている子どもになりきって、自分自身の気持ちや気持ちの動きを線として表現します。聴き手(大人役)は、話し手(子ども役)の気持ちを受け止めサポートするように線を描くのです。聴き手(大人役)が線を描くときには、考えて線を描くのではなく、相手を感じ、自分を感じてそれを線として表現するようにします。話し手(子ども役)は、自分自身の気持ちのままに、それを線として表現して描きます。なお、線を描くときに文字やハート型、星形のような図形を描くことは禁止とします。これらは言語的な(バーバルな)要素を強く持っているため、プレバーバルな要素を感じ取る体験をする妨げとなるからです。
 そして、2人が何となく「そろそろ終わりかな」と感じるところで、聴き手の人から「そろそろ終わりにしますか」などと投げかけて、やり取りを終わりにします。元々の方法では、区画を塗るのですが、そうすると描いた線の勢いや雰囲気(プレバーバルな要素)が分かりづらくなってしまいます。そのため、ワークとしては、線を描くだけにすることが良いのではないかと考えています。
 作品が完成したら、話し手(子ども役)と聴き手(大人役)の2人で、線を描きながら感じた自分自身の心の動きについて振り返りをします。もし、観察者の役割の人がいたら、その人にも加わってもらい振り返ります。
 振り返りの中で語られることが多いのですが、交代で線を描くプロセスでは、様々な感情体験が生じてきます。例えば、話し手は、聴き手がしっかりと受け止めてくれたと感じ、少しずつ安心して線を描くことができたと感じることもあります。反対に、聴き手の描く線によって、余計にイライラしたり、さらに孤独を強く感じたりする場合もあります。また、聴き手はどのように線を描いて良いか分からなくなることがよくあります。そのため、自信が持てないまま線を描いて相手に関わっていくことが多いかもしれません。そういったプロセスを振り返りながら、自分自身を見つめることが大切です。
 この方法は、20年ほど前に大学のカウンセリングについての講義の中で演習として実施してきました。数年間続けてきましたが、非常に良い手応えを感じました。なお、ほぼ同じ時期に同じ趣旨で交互色彩分割法を用いた実習が実践されたことが報告されています(三宅、2009)。そこでは、自己理解を深め、自分のコミュニケーションの特徴についてふりかえり、よりよいコミュニケーションのあり方について検討する、今後の自分が取り組むべき課題を捉えるといった意味があると考察されています。
 私の講義の中では、1人が1回ずつ体験する程度でしたが、何度でも繰り返しやってみる価値があるワークだと思います。ぜひ、やってみてください。

文献
神田橋條治 1990 精神療法面接のコツ 岩崎学術出版社
小嶋玲子 2006 交互色彩分割法の学校臨床場面での適用-「やりとり」と「自由度」に注目して- 心理臨床学研究,24(3),335-346.
三宅理子 2009 交互色彩分割法の活用の可能性ー教員養成課程におけるカウンセリング実習への適用から一 島根大学教育臨床総合研究, 8, 101-112.

執筆者プロフィール

半田一郎(はんだ・いちろう)
スクールカウンセラー・子育てカウンセリング・リソースポート代表。
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー。

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