【第8回】子どもたちのSOSを受け止め、サポートする関わり方(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方
これまで子どもの話を傾聴する時には、子どもが自分自身について語ることを促し、ともに眺める関係を保ちつつ話を聞くことが大切であることを解説しました。
今回は、子どものSOSを受け止め、子どもをサポートする関わり方について解説します。
温かく穏やかに関わる
子どもたちのSOSを受け止め、子どもたちをサポートするために、一番大切なことは温かく穏やかに関わることです。一般的に、人は相手の顔の表情や身振り手振り、声の抑揚から、安心・安全かどうかを感じ取ります(Porges、2018 花丘訳 2018)。この安心・安全の関係があるからこそ、不快な感情を引き起こす出来事や状況について話し、考えていくことができるのです。つまり、直面している問題やそれに伴って生じる不快な感情について一緒に眺めながら話しをする時に、安心・安全の関係が生じるように関わることが、子どもをサポートすることなのです。こういったことから、子どもをサポートするときの基本は言葉の内容ではなく、表情、身振り、声の抑揚などの雰囲気が温かく穏やかであることが大切なのです。これは、言葉以前の(プレバーバルな)関わり方がサポート(抱えの環境)の本質だ(神田橋、1990)ということと共通しています。
しかし、そういった言葉以前の関わりは、その場、その瞬間に感じられるものです。そのため、その場から離れたり、その瞬間が過ぎ去ったりすると、サポートも消えてしまったように感じられがちです。反面、言葉はその瞬間が過ぎ去ってしまっても、その場から離れてしまっても、記憶の中に残っています。言葉以前の(プレバーバルな)安心・安全の関係の中で、言葉を使って関わることが、その瞬間だけではなく、子どもをサポートし続けることにつながるのです。
ところで、大人が不安や混乱の中にいる状態では、子どもと安心・安全の関係を保つことができません。大人が自分自身の安心安全を保たれているからこそ、子どもと安心・安全の関係を持つことができるのです。つまり、大人が自分の安心・安全を保つため、大人自身が他者からのサポートを得ることも非常に大切なのです。
今生じていることについて肯定的にフィードバックする
ところで、大人が子どものSOSを受け止め、子どもをサポートするためには、その子どもと関わりが保たれていることが大前提となります。関わりが保たれていなければ、大人がどんなに心配しても、どんなに手を差し伸べても、受け止めることもサポートすることも全くできません。そのため、今生じている関係を確かにすることが何よりも大切なのです。
例えば、子どもが自分から相談にやって来た場合には、ここまで足を運んだからこそ関わりが持てるのです。だからこそ、まずは来てくれたことを肯定的にフィードバックすることが極めて重要なのです。「相談に来てくれて良かった」「本当に勇気があるから相談することができた」などと子どもに伝えることが大切です。
また、自分から話してくれる時には、「自分の気持ちを伝えられることは素晴らしいね」などと伝えたいと思います。こちらからの投げかけに対して自分なりの考えを返してくれる場合も同様です。「今考えて言ってくれるのは、素晴らしいことだね」などと返したいと思います。いずれの場合も、話の内容に焦点を当ててしまいがちですが、まずは、子どもが自分から行動したり言葉にしたりしていることそのことについて、肯定的にフィードバックすることが重要だと思います。
上記のように、子どもが自発的な言動を示してくれる場合には、肯定的にフィードバックしやすいのですが、消極的・拒否的な場合にはどのようにフィードバックして良いか迷うことが多いかもしれません。このときにも、今生じている事を肯定的にフィードバックすることをお勧めします。例えば、こちらが何かを提案したときに、子どもが「無理です」などと拒否してきたとします。その場合にも、拒否してきたことに肯定的にフィードバックをすることが大切です。その場で、大人の意見を否定せずに、話を合わせて「分かりました」などと返すことは簡単です。そうせずに自分の意見を言ってきたわけですから、極めて良い反応をしてくれたのだと捉えることができます。だからこそ、「無理ですって、ちゃんと言ってくれるのって本当に有り難いなぁ」などと返したいと思います。
また、こちらの投げかけに対して答えることができずに固まってしまった場合でも肯定的にフィードバックすることが大切だと思います。「今、(こちらが)言ったことを、きちんと考えてくれているから、どう応えたら良いか分からなくなってしまったのかなぁ。そんなふうにしっかり受け止めてくれてありがとう。」などと、伝えたいように思います。それに対して、小さくうなずくなどの反応が生じるかもしれません。その反応を見逃さず、「うん」「うなずいてくれて、伝わったのが分かったよ。ありがとう」と答えたいと思います。
また、こちらの投げかけに対して、反発が返ってきたときも同様です。例えば、「大人は、そうやって勝手に決めつける」「どうせ大人は信用できない」などという言葉には、「思ってることを、率直に言ってくれてありがとう」と発言すること自体について肯定的にフィードバックすることが大切だと思います。
こんなふうに、どのような場合でも今生じている事に肯定的にフィードバックすることが極めて大切だと思います。関わりが持てるからこそ、子どものSOSを受け止め、子どもをサポートすることができます。関係を維持しつづけることが、何よりも大切だと思います。良い相互作用が生じるように、今生じている事を肯定的にフィードバックすることが第一歩だと考えられます。
感情の言語化を促す
次に大切なことは、感情の言語化です。前回説明したように、子どもは自分自身の感情を言葉で語らないことが極めて多いと思います。状況や他者の行動について説明しているときには、状況や他者に注目するよりも、その子ども自身の感情に注目することが大切です。そして、子どもが自分自身の感情を言語化できるように促すことが重要です。
例えば、友達に無視されたことについて話している時には、その時の事実関係について焦点を当てて言葉を返しがちです。そうではなく、話している子ども自身の感情について「辛いね」などと返してみることが一つの方法です。もちろん、「どんな気持ちだった?」と感情に焦点があたるように質問してみても良いと思います。ただ、子どもはそう質問されても、友達の事や悪口の内容を改めて説明することが極めて多いと感じます。なかなか、自分自身の感情に焦点が当たらないのです。その場合も、「辛いね」と感情を直接的に言語化して返してみることが良いと思います。その際に、温かく穏やか雰囲気で言語化することが極めて重要です。当然ですが、冷たく非難するように言語化することは、子どもを深く傷つけてしまいます。温かく穏やかに言うことによって、その感情が受け入れられていること、つまり承認されていることが子どもに伝わります。このプロセスを通して感情が社会化され、子ども自身が不快な感情と上手に付き合うことが少しずつできるようになるのです(大河原、2004)。
ところで、「辛いね」などと不快な感情を明確な言葉で表現すると、子どもが余計に辛い思いをするのではないかと心配する方が多いようです。もちろん、わざわざ辛い体験をさせて、辛い思いをさせることは良くないことです。しかし、この場合は既に生じている感情に目を向けるだけです。目を向けることによって感情が明確に感じられるかもしれませんが、それはその感情と上手く付き合うために必要なことです。大人が一緒にその感情に目を向けてくれるからこそ、安全に不快な感情に向き合うことができるのです。子どもが一人でその感情を味わう場合、大きな孤独感にも自分自身を脅かされます。どんなに身近な大人であっても子どもの感情をコントロールすることはできません。それでも、大人がそばにいることはできるのです。だからこそ、「辛いね」などと感情を言葉で表現して伝えることは大切なのです。
また、子どもの不快な感情に目を向けると、それが自分自身に伝わってきて、大人も自分自身にその不快な感情が湧いてくるように感じられることがあるかもしれません。それは、共感に近いと思います。そういう意味でも、子どもと一緒にその不快な感情を少しの時間味わってみることは、大きな意味があります。
一方、共感できていない場合に感情を言葉で表現すると、子どもにとって嘘くさく感じられるのではないかと不安を持つ方もいらっしゃるようです。そういう場合には、「~っていうのは、辛くなっちゃうよね」、あるいは「~があると、辛い気持ちが湧いてくるね」などと返すことお勧めします。これは、その出来事によって不快な感情が湧いてきたというメカニズムを言葉で表現したものです。例えば、子どもが手を机の角にぶつけたときに、「角にぶつけると痛くなっちゃうよね」などと返すことと全く同じです。子どもが自分自身の心の中で生じている反応に目を向けるきっかけになると思います。
子ども自身の目指す目的地を共有する
不快な感情を言語化し、気持ちを受け止めたとしても、その感情が消えて無くなるわけではありません。そのため、大人は何とかして問題を解決してあげたいと思うことが多いのではないかと思います。しかし、大人が問題を解決しようと考える前に、まずは子どもが目指している目的地を理解して、それを共有することが重要です。大人と子どもが違う方向に向かって進んでしまうと、お互いがお互いの足を引っ張ってしまい、良い変化が生じない可能性が高いと考えられます。まずは、目指す目的地を共有することが大切です。
ところで、目的地が分かっているかどうかによって、悩みは大きく2種類に分けられます。1つには、自分自身の目指す目的地が分かっていて、そこへ向かう道筋(つまり解決策)が分からなくて悩んでいる場合があります。もうひとつには、そもそも目的が分かっていないため、当然、そこへ向かう道筋(解決策)も分からないという場合があります。目的地が分からないという状態の方が、悩みが深いと考えられます。
そのため、まずは子どもが自分の目的地が分かっているかどうかを確認することは非常に大切です。例えば、「(あなたは)どうなりたいの?」「(あなたは)どうしたいの?」などという質問も一つの方法かもしれません。しかし、この質問には言外に批判的なニュアンスが感じられます。また、「どう?」という言葉で始まる疑問文は難しい疑問文です。そのため、一般的には子どもに「どうなりたいの?」などと質問することは勧めらません。投げかけ方に工夫が必要だと思います。
一つの投げかけ方は、「・・・してくれたら良いのにとか、・・・だったら良いのにとか何か思いつく?」という投げかけ方です。この投げかけ方は、子ども自身のことを聞いているのではなく、他者や状況を聞いています。子ども自身のことではないからこそ、自分にできない(と思っている)ことや、知らず知らずにあきらめてしまったことも、現実的ではないことも語られる可能性があります。
例えば、「テストがなかったらいいのに」などという答えが出てくるかもしれません。それが現実的かどうかということよりも、「テストがない」ことが、子どもにとってどのように良いのかを理解することが大切です。そこで、「そうだね。テストがなかったらすごく良いよね。特にどこが一番良い?」とか、「テストがなかったら、どんな良いことが起きるの?」などと聞いてみることが一つの方法です。例えば、「のんびりできる」という答えが返ってきたら、それがその子どもが向かおうとしている目的地だと考えられます。
また、子どもが拒否的な反応をする場合には、子どもの言葉が子どもの持つ目的地を理解する入り口となる場合があります。例えば、「大人は信頼できない」という言葉の裏側には、「大人を信頼したい」という気持ちが隠れています。大人が信頼できるかどうかということよりも、「信頼できる大人に会いたいよね」などと、子どもの気持ちに応えたいものです。この場合、信頼できる大人をどうやって探して、どうやって見分けるかということを話し合うことは、子どもの目的地を共有して、そこへ進んでいく道筋を一緒に考えることになります。また、「どうせ大人には分らない」などという言葉にも、「大人に分かって欲しい」という気持ちが隠れています。例えば、「どこを一番、分かって欲しい?」などと問いかけてみることも、子どもの目的地を理解する入り口になると思います。
こんなふうにしながら、まずは子どもの持つ目的地を探して、それを共有することが大切です。ところが、目的地を共有しただけでは、子どもの直面する問題を変化させ解消できるわけではありません。そうであっても、一緒に同じ目的地を目指しているという大人との関係こそ、子どもをサポートするのです。
まとめ
子どものSOSを受け止め、サポートするためには、温かく穏やかに関わることが基本です。その上で言葉を使って関わることが求められます。そのためには、大人自身が安心/安全を感じられていることが大切です。そして、今生じていることに対して肯定的にフィードバックすることが大切です。これらが子どもとの関係を保ち、関わり続ける基盤となります。また、子どもが自分の感情を言語化できるよう促すことや目的地を共有することが重要です。
執筆者プロフィール
好評を博した本連載を大幅に加筆・修正した書籍を刊行致しました。
半田一郎・著『子どものSOSの聴き方・受け止め方』四六判・212頁・2,310円(税込)
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