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節目のスタートから心の動きを見つめる(子育てカウンセリング・リソースポート代表:半田一郎) #心機一転心の整理

 こころの整理をするには時間がかかると思います。新年度になったから、二学期が始まったからと言って、簡単に気持ちが変わらないこともあるでしょう。 
 しかし、こういった節目がある種のターニングポイントになることは間違いないのではないでしょうか。こころの整理をする上で、節目を上手に生かすことについて半田一郎先生にお書きいただきました。

 新学期や新年度、新しい部署への配置換え、引っ越し、病気の回復など、人生には様々な節目となるできごとがあります。節目では、今までの自分を振り返り、これからの新しい生活や活動に向けて色々と考えることが多いと思います。
 
 ところで、私が学んで活用してきたカウンセリングの方法論の1つに「解決志向アプローチ」という方法論があります。過去や問題を重視せず、なりたい自分やなりたい状態を極めて具体的に捉えることを重視します。そのことを通して、自分自身が望んでいる方向へ自然と変化していくことを目指しています。このnote記事ではこの方法論を下敷きにして、節目のスタートから心機一転して新しい何かへと心が動いていくことを一緒に考えて行きたいと思います。

心は既にスタートを切っています

 節目は、今までとは違う生活や活動に向けて新たにスタートを切ることができる非常に良いチャンスです。実は、「節目だな」「これから頑張ろう」と思っていること自体が、既に心はスタートを切って動き始めているひとつの証拠です。心が動き始めているわけですから、心を見つめるときにも、動いている様子や感覚をしっかりと捉えながら見つめることが大切です。そして、心が動いてどんな方向に進んでいこうとしているのかをつかむことも極めて重要です。

目標を捉えなおす

 節目では、新しく目標を立ててそれに向かって進んでいこうとすることも多いと思います。目標を立てること自体は非常に良いことです。ここでは、心が既に動き始めていることを踏まえて目標を捉え直してみたいと思います。
 
 例として「新しいプロジェクトで今まで以上に頑張ろう」という目標を考えてみます。「頑張ろう」という言葉には、スタート地点にいる今の自分自身の心の動きが表現されていると感じます。もう既に心は動き始めているわけですから、実は「頑張ろう」という意欲は既に達成されているのです。意欲があるということは素晴らしいことですが、それが達成されている今は、その意欲をどのような方向に向けていくかが大切です。
 
 まず、意欲を向けていく方向を考えてみます。頑張ることによって、達成されるものは何でしょうか? あるいは、頑張ることによって得られるものは何でしょうか? 頑張ることによって「プロジェクトの成功」が得られるのだと思います。つまり、目標は「(新しいプロジェクトで)今まで以上に頑張って、プロジェクトを成功させる」という目標になります。繰り返しになりますが、「プロジェクトを成功させたい」という表現はこの場合の目標としては適切ではありません。「成功させたい」という意欲は既に達成されているため、今の時点の目標にはなりません。目標は「プロジェクトを成功させる」です。 
 
 しかしこれでも、まだ十分に心の動きを捉え直すことができていません。自分の人生や生活は自分自身のものです。心も自分自身のものです。プロジェクトの成功は自分自身ではありません。プロジェクトの成功によって、自分自身に何が生じるのか、何がもたらされるのかが大切なのです。言わば、プロジェクトの成功は、自分自身にとってひとつの手段です。だからこそ、自分自身にとっての目標が大切になるのです。

自分自身にとっての目標とは

 プロジェクトが成功すると、自分自身に何が生じるでしょうか? 例えば、会社の同僚からの評価が高くなるかもしれません。しかし、評価するのは同僚で自分自身ではありません。そこで、同僚からの評価が高くなったことを想像して、自分自身の中に何が生じてくるかを感じ取ってみてください。
 
 きっと嬉しい気持ちや誇らしい気持ちが湧いてくると思います。また、安心する気持ちも湧いてくるかもしれません。さらに、同僚からの評価だけではなく、自分自身でも自分を認めることができると思います。そして、嬉しい、誇らしい、安心する気持ちが湧いてくるのではないかと思います。
 
 そういった気持ちは自分自身の体の中のどこに感じることができるでしょうか? お腹の底の方でドッシリと安定した感覚が生じているかもしれません。胸のあたりでは、意欲が湧いてくる感覚があるかもしれません。頭の中では、次の目標や活動に向けて色々と考えが動き始めているかもしれません。プロジェクトが成功することも、評価が高くなることも自分自身以外のものごとですが、このような自分の中に生じてくる気持ちや体の感覚は自分自身のものなのです。
 
 つまり、プロジェクトの成功によって、うれしい・誇らしい・安心する気持ちが湧いてきて、体の中にドッシリと安定した感覚が生じたり、次に向かって考えが動き始めたりするという自分がもたらされるのです。これが本質的な目標です。「新しいプロジェクトで今まで以上に頑張ろう」と考え始めたときに、心の中にはこういった深くてリアルな目標が隠れていたと考えられます。詳しく丁寧に心を見つめることを通して、はっきりと捉えることができるのです。

解決像は北極星

 ここで明確になった目標は、解決志向アプローチの概念で言えば「解決像」にあたります。「解決像」とは問題がなくなった状態をイメージしたものではありません。より良い最高の状態で、言わば北極星のようなものなのです(森・黒沢、2002)。遠くにあって到達することはできません。でも、いつも変わらずそこにあるので、いつでも見失わずに目指すことができるのです。
 
 また、解決像は単なる目標ではなく、その時に自分自身が実際どうなっているのかというイメージです。そして、自分自身の中にあるものですが、はっきりと捉えることが難しいものです。そのため、解決志向アプローチに基づくカウンセリングでは、解決像を具体的でリアルなものにするために、様々な工夫をして話し合っていきます。そして、カウンセラーとクライエントが一緒に作り上げていくという意味を込めて、そのプロセスは「解決を構築する」と呼ばれています。解決志向アプローチでは、一番大切なプロセスなのです。具体的でリアルな解決像ができて、それを捉え続けることができれば、解決は自然と近づいてくるとさえ言えます。

自分で解決像を構築する

 カウンセリングでは、カウンセラーとクライエントが一緒に、解決像を作り上げていきますが、自分一人だけでも解決像を構築することは可能です。その入り口は、目標を達成したときに自分自身はどうなっているのか、ということです。その時に、どう行動して、何を考えていて、どんな気持ちが湧いていて、どんな身体感覚が生じているかということを具体的に想像します。
 
 今の自分にできそうもないとか、夢物語だなどと可能性をつぶしてしまわずに、広く豊かに想像することが大切です。解決像は北極星のようなものなのです。だから、現実的でなくても大丈夫です。解決像として、今の自分の現実とは違う状況や場面、行動がイメージされても、その自分の中に生じている感情や体の感覚をリアルに想像し感じ取ってください。感情や身体感覚までしっかりとイメージできた解決像を構築することが大切です。
 
 こんなふうに、解決像を構築することは、自分自身の心を捉えなおすことでもあります。節目の時期には、心が自然と動き始める時期です。そのチャンスを活かして、心が動いている方向を見つめ解決像を構築することは、非常に意味が大きいと思います。

行動につなげる

 解決像は北極星のようなもので、心の目指す方向性を示しています。そののため、現実的な行動に直結するわけではありません。このnote記事のテーマからは若干ずれますが、行動につなげることにも少しだけ触れておきます。行動につなげるには、具体的で小さなゴールを明確にして、それを重ねていくことが大切です。
 
 北極星は遙か彼方ですが目指す方向です。その方向へ進む道筋には、今現在までに進んできた道のりもつながっています。進んできた道のりは、今までにできていることです。そのできていることを、できるだけたくさん見つけてください。そして、そこから半歩だけ進むとしたら、何ができるか考えてください。
 
 例えば、「今は○○ができているから、さらに、少しだけ××ができる。」などと具体的な行動を見つけていただきたいと思います。少し考えれば、いくつか見つかると思います。その行動が、具体的で小さなゴールです。それを積み重ねていくのです。
 
 また、ある行動はいつもはやりたくてもできないのに、なぜかたまたまできたことがあるかもしれません。例えば、いつもは会議で発言しようと思ってもなかなか発言できないのに、ある会議ではたまたま発言したなどということです。その時は、偶然に良い条件が重なっただけということもあると思います。それでも、自分に潜在的な能力があるからこそ、条件が整ったときにそれを実行できるのです。だから、できないのではなく、条件が整えばできるということです。そういった、いつもはできないけれど、なぜかたまたまできた行動もたくさん見つけて、ストックしてください。その行動も具体的で小さなゴールです。そして、条件が整えば自然とゴールが達成されていきます。
 
 こんなふうに、小さくて具体的なゴールを積み重ねていくことで、解決像が少しずつ近づいてくると思います。

引用文献

「<森・黒沢のワークショップで学ぶ>解決志向ブリーフセラピー」森俊夫・黒沢幸子 2002年、ほんの森出版

【執筆者プロフィール】

半田一郎(はんだいちろう)
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー
1995年から茨城県でスクールカウンセラーとして勤務。2018年に「子育てカウンセリング・リソースポート」を開設。主な著書に『一瞬で良い変化を起こす10秒・30秒・3分カウンセリング―すべての教師とスクールカウンセラーのために』(ほんの森出版)、『スクールカウンセラーと教師のための「チーム学校」入門』(日本評論社、編著)、『子どものSOSの聴き方・受け止め方』(金子書房)がある。
 
子育てカウンセリング・リソースポートのホームページは以下のURL
https://www.resource-port.net/

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