見出し画像

第20回 家族へのアプローチ① ~不登校児の母親への初回面接から~(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー

はじめに

 今回が2023年最初の連載となります。みなさん、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 この連載も第20回となりました。これまでは、ブリーフセラピーの基本的な考え方、とくに相互拘束そして二重拘束について説明しました。後半はブリーフセラピーの解決志向アプローチで用いられる主な技法について具体例を交えて紹介してきました。

  ここからは、実際の事例を通して、考え方や技法をどのように使っていくかを見ていきましょう。

  最初にご紹介する事例は、私がブリーフセラピーを始めた初期の頃のケースです。なお、ここで紹介する事例は相談者の許可を得た上で、アレンジを加えて紹介しております。

申込内容

 私のところに一通のカウンセリングの依頼メールが届きました。届いたメールにはおおよそ、以下のような内容が書かれていました。

 うちの小学4年生の長男について相談させてください。

 小2の後半から、単発的な欠席を繰り返すようになりました。1日も休まず登校出来る学期もありましたが、現在は週1日か2日しか登校できていません。

 最初の頃は欠席する理由がその都度ありましたが今は特別な理由がみあたらず、「学校は疲れる」「勉強したくない」といいます。

 かかりつけの病院にて親子でカウンセリングを長く受けていますが、よくなりません。

 父親は「力ずくでも学校へ行かせろ」といいますが、どうしていいのかわかりません。長男はあまり感情を表に出さず内向的です。長い日々に親子とも前向きな気持ちを維持できずに疲れはてました。ぜひカウンセリングをお願いいたします。

 メールアドレスを確認すると、どうやら母親自身ではなく、父親の仕事用のメールから送られているようでした。

これまでの経緯と問題

 当日は、母親が一人で来談しました。新幹線と在来線を乗り継いで片道2時間かけてきたと言います。遠くからの来たことを労い、面接をはじめました。

  まずは申込メールの内容を確認しつつ、具体的に内容を聞いていきます。内容は以下の通りでした。

・家族構成は、両親、IP(小学4年生男児)、妹(幼稚園)、そして父方の祖父母が同居。

・夫(父)は仕事中心の生活をしていて子育てには非協力的。ただ、怒りやすいため、ときどき子どもに急に怒り出すことがある。

・ある日は、登校する時間にもかかわらず布団で寝ていたIPを布団ごと担ぎ上げ、「お前なんかこの家から出ていけ」と窓から庭に放り投げた。そんなことが繰り返されたため、当然ながら、IPは父親を怖がり、ますます母親に甘えるようになってしまった。

・病院のカウンセリングに一度だけ夫も同席したことがあったがでも「何で俺があんな若いカウンセラーに意見されなきゃいけないんだ」と激怒し、それ以降はさらに非協力的になってしまったといいます。今回のカウンセリングについても「もう俺は知らん。お前が行きたいなら、勝手に行って来い」と言われ、母親一人で来談した。

 ここで私は、スターティング・クエスチョンを行いました。

  母親は「思いつかない。良くなっても変わらない気がする。父親には息子のことを言われるし、息子にも父親が嫌いだと言われる」と答えました。

  さらに話を聞いていくと、同居している姑がご近所に「嫁の子育てが悪いせいで孫が不登校になっている」と嘆いており、買い物などでご近所に会うと「おばあちゃんを心配させちゃだめよ。あなた(母親)がしっかりしないと」などと言われることがあり、母親自身も外出したくない、とのことでした。 

 また、娘(IPの妹)が通う幼稚園の先生からは「指しゃぶりや爪噛みが見られる。指しゃぶりは、お母さんの愛情不足だろうから、もっと接してあげて」といわれたことや、スクールカウンセラーや自治体の教育相談を受けたが「不登校になったのは家庭が原因。お母さんがもっとしっかりしてお子さんに接しないといけない」と言われ、担任からも「学校に連れてきてくれれば、後は任せてください。でも、学校に連れてくるまではご家庭で何とか頑張ってください」と言われたことなどが語られました。

  ここまでの内容を聞くあいだ、母親は終始泣き通しており、蚊の鳴くような声でやっとのように話していました。初めてカウンセリングを担当した私は母親の話に圧倒されながら、これまでの努力と苦労をねぎらうことに徹しました。

初回面接の整理

 一度休憩をとって、席を外して母親の話を頭の中で整理しながら、次のような見立てを立てました。

① 夫、姑、幼稚園の先生、スクールカウンセラー、担任など、さまざまな登場人物が現れ、それぞれの発言があったが、どれも少なくとも母親にとっては「自分の子育てを責められている」と感じられている。

② 母親にはそれぞれの発言が「あなたの今のままの子どもへの接し方ではダメだから、なんとかしなさい」というメッセージとして母親を拘束する。 

③ その結果、母親一人で子どもに接するという行動をとらざるを得ず、母親とIPの結びつきはどんどん強くなる。

④ 母親一人がIPに関わるため、さらに周囲が協力することが出来ず、(おそらくは良かれと思って)母親の子どもに対する接し方に口を出すようになる。 

⑤ その発言が、母親にとっては「自分の子育てを責められている」と感じられ……再び①へ(以下続く)

 このように、母親が子どもへ一生懸命に対応するほど、周囲は母親の動きに期待して注文をつけたり、いま子どもが不登校なのは母親の対応のまずさが原因だと批判したりする。すると、さらに母親は周囲を頼ることができず一人で対応することになる。子どもも、いつもそばにいる母親に甘え周囲の大人の厳しい対応を回避してしまう。さらに、きょうだいで母親の取り合いのような状況に陥ってしまったのです。

 この悪循環を解消するためには、母親一人が対応している現在の状況に介入する必要があります。

質問と介入

 このように見立てたところで、新たに一つ疑問を持ちました。そこで、面接に戻り、次の質問をしました。

Co(私):今日は、遠いところ面接に来ていただいて本当にありがとうございました。とても大変な中でお母様が努力されて、お子さんに一生懸命に愛情を注いで接していることがとてもよく伝わってきました。

Cl(母親):ありがとうございます。

Th:ところで、一つ質問なのですが、今日はお母様が一人でいらっしゃいました。今の時間、お子さんの面倒は誰が見ているのですか?

Cl:夫です。面倒を見ていると言っても、おそらく昼間からビール飲んで、ゴルフ中継見ているだけですが、お昼ご飯は食べさせてくれたようです

Co:そうですか。お父様が、たまの休日でのんびり休みたいところを、このカウンセリングにお母様が一人で来れるように協力してくれたのですね。ありがたいです。面接の内容は特に言う必要はありませんが、できればカウンセラーがお子さんの面倒を見てくれたことをとても感謝していたと、できたら伝えていただけますか?

Cl:はぁ、できたら伝えます。

Co:それから、これも「できたら」で構いませんので、お母様自身もお父様に対して、「今日、子どもの面倒見てくれて本当にありがとう。とても助かった」と伝えていただけますか? 次回の面接にまたお母様が来てもらうためにも、お父さまにはお子さんと留守番をしてもらわないと困るので、お母様としては「家でゴロゴロしているだけで何もやらないのに何で感謝しなければいけないのか」と思うかもしれませんが、ここはお子さんのために協力して下さい。もし、言葉で伝えにくい場合は、いつもより少し高級なビールを買って帰って、ついであげるだけでも構いません。

Cl:わかりました。

Co:それから、次回面接までにお子さん(IP)の調子のよい日と悪い日を観察してきてください。

  最後には、母親の涙が止まり、「家では言えないことを吐き出せて、少し楽になりました」と笑みをみせました。 

さいごに

 今回は、実際の不登校事例の初回面接から、ブリーフセラピー的な面接の実際を紹介しました。

 ブリーフセラピーでは「すべてがメッセージである」と考え、相手をどのように拘束しているかを重視します。したがって、面接自体もメッセージなので、私の場合はインテークだけの面接という考えはなく、初回面接から相手にどのようなメッセージが伝わるかを最大限意識します。

 次回はこの事例の後半を紹介します。結論を先にお伝えしますと、4回の面接で終結いたしました。病院のカウンセリングでもスクールカウンセリングでも改善しなかった事例に対して、何をしたのか、そして何をしなかったのか。一緒にブリーフセラピーの面接に参加しているかのように考えていただければ幸いです。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。

▼合同会社ぜんと公式ホームページ

▼著書

▼ 連載マガジンはこちら!

▼合同会社ぜんとのサイトに本連載の質問フォームがあります!