【第1回】今の子どもたちへの危機感(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方
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【第1回】今の子どもたちへの危機感(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方

はじめに

 この度、SOSの聴き方受け止め方というテーマで連載させていただくこととなりました。非常に深いテーマですので、私なりの問題意識や経験に基づいて、意味のある内容をお届けできるように努めたいと思います。

 実は、このテーマで連載させていただく背景には、私なりの危機感があります。まずは、その危機感についてお話しさせていただこうと思います。

子どもの自殺数が増加

 日本の自殺者数は、平成10年に大幅に増加して3万人を越えて以来、10年以上横ばいで高い水準が続いてきました。それに対して、平成18年には自殺防止基本法、H19年には自殺総合対策大綱が策定され、それに基づいて自殺防止対策が実施されてきました。その対策による効果が少しずつ現れてきたのだと思いますが、平成22年以降、令和元年まで自殺者数が減少し続けるようになりました(厚生労働省、2021)。

 しかし、10代の自殺者数はその間ずっと横ばいであまり変化がありませんでした。しかも、15~39歳の死因の第1位は自殺となっています。そして、15~34歳の若い世代で死因の第1位が自殺となっているのは、先進国(G7)では日本のみであり、その死亡率も他の国に比べて高いものとなっているとのことです(厚生労働省、2021)。

 そして、コロナ禍の中で、子どもの自殺が大きく増加したことが報告されています(文部科学省2021)。平成28(2016)年289名、平成29(2017)年315名、平成30(2018)年333名、令和元(2019)年339名と3年間ずっと増加してきましたが、令和2(2020)年は479名とさらに大幅に増加しているのです。コロナ禍の中で、子どもたちがさらに様々な困難な状況に追い込まれたのだと考えられます。

半田先生 第1回自殺統計

(文部科学省、2021)

 そもそも、子どもの数自体は少しずつ減っています。自殺まで追い込まれてしまう子どもたちが増えつづけているのは、本当に深刻な事態だと思います。

夏休み明けの子どもの自殺

 子どもの自殺は、多くの自治体で夏休みが明ける9月1日に最も多くなる(内閣府、2015)ということが、ニュースなどで報道され、夏休み明けの子どもの自殺が社会に知られるようになりました。それを受けて、2015年8月26日に鎌倉市図書館がツイッターで「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。」と呼びかけました。それが、SNSで拡散されたりニュース報道されるなどして大変大きな話題となりました。

 このことをきっかけにして、死んでしまいたいと思うくらいなら、どこかに逃げたり休んだりすることは全くおかしくないことが、社会で共有されたように感じます。当時私も、社会が子どもたちをサポートしようとする姿勢を示してくれたことで、暖かい気持ちになったことを覚えております。

 しかし、次の年にも、その次の年にも、夏休みの終わりが近づくと2015年と同じように「夏休み明けに辛ければ、無理して学校へ行くことはない」等と呼びかけが行われていたのです。私は、このことに大きな違和感を抱いていました。

 自殺は、「追い込まれた末の死」(厚生労働省、2017)とも言われます。ある日突然に死にたい気持ちが生じて自殺行動に至ってしまうものではありません。だからこそ、夏休みが終わるころになって子どもたちに呼びかけをすることは、本質的な解決にはつながらないものだと思います。もう既に夏休み明けに子どもの自殺が多くなることは分かっているわけですから、直前になって子どもに呼びかけるのではなく、事前にしっかりとした対応をするべきだと感じていました。少なくとも、夏休みが始まる前から、大人が意識を持って子どもたちにかかわっていくような動きが必要ではないかと考えていました。

半田先生 1回挿入写真 介入

SOSの出し方教育

 こういった流れの中で、自殺総合対策大綱が2017年7 月に閣議決定されました。その中では、児童生徒の自殺対策を強化するため、新たに「児童生徒のSOS の出し方に関する教育」を全国的に推進することが示されました(厚生労働省、2017)。それを受けて、いくつかの「SOSの出し方教育」のモデルが提案されました。

 例えば、東京都のモデルでは、DVD教材も活用し「身近にいる大人に相談しよう」というコンセプトを伝える内容になっています(東京都教育委員会、2021)。学校段階に応じて3種類の教材が作成されています。例えば、中学生向けの動画教材では、前半は約10分で、(1)一人一人が大切な存在であることに気付く、(2)ストレスの概要について知ることなどが、解説されています。そして、前半の最後に、「つらい気持ちになった時に、どのような対処をしているか」を自分なりに考えてみて、その後、生徒同士で伝え合うように投げかけがあります。さらに、後半(約10分)で 対処法について解説がなされて、信頼できる大人に相談するように子どもたちに投げかけています。その中では、「少なくとも3人の大人に話してみましょう。 その中で、「それは大変だったね。」と、あなたの気持ちを真剣に受け止めてくれる大人がいたら、その人があなたのことを分かってくれる人、信頼できる大人です。その人が見つかったら、一緒に考えてもらいましょう。」と呼びかけています。さらに、相談機関を紹介し連絡先が掲載された資料を配付するという流れです。

 その他の「SOSの出し方教育」のモデルでも、似たような内容となっていますが、東京都の教材と同じように3人の大人に相談するように勧められています。しかし、私は、この「少なくとも3人の大人に相談しよう」ということには、違和感を抱きます。

 この「3人の大人相談する」ということは、私の知る限りでは松本(2012)の中で述べられていることです。そこでは、大人が信頼できず友人にしか傷ついている自分自身を見せられない中高生が多い現状に触れた上で、まず友達のSOSに気づてほしいと書かれています。そしてSOSに気づいたらその友達にかかわりを持ち、さらに、大人につないでほしいと呼びかけています。その上で、「3人に1人は信頼できる大人がいる」と述べ、3人の大人に相談するように促しています。つまり、辛い思いをしている子ども本人ではなく、その子どもとつながっている子どもに対して大人に相談するように促しているのです。この場合、辛い思いをしている子ども本人よりは、大人に相談することの負担が少ないと思われます。また、大人に相談することは、友達をサポートしている子ども自身を守る意味もあると思います。

 それとは違って、「SOSの出し方教育」では、辛い思いをしている子ども本人に対して3人の大人に相談するように求めているわけです。まず子ども本人に負担を強いることになるように感じます。学校で行う「SOSの出し方教育」なのですから、なぜ、「担任の先生に相談してください」「相談担当の先生に相談してください」「スクールカウンセラーに相談してください」などと具体的に相談を促す言葉ではないのか残念に思いました。自信を持って「私(たち)に相談してください」と言ってくれる大人が身近にいることで、子どもたちの安心感も高まるのではないかと思います。

 こういったことから、「SOSの出し方教育」として3人の大人に相談するように子どもに求めることは、厳しいようですが、大人の責任の回避のように私には感じられます。学校で行う「SOSの出し方教育」ですから、まずは、学校の教職員が子どものSOSをしっかりと受け止められるようになることが大切なのではないかと思います。そのために、大人がSOSの受け止め方をしっかりと身につけることが、子どもへの「SOSの出し方教育」よりも先行するべきではないかと思います。

 また、この後で述べますが、身近な大人が受け止めるという前提なしで、子どもにSOSを出すように求めることは、さらなるリスクにつながる側面があると危惧しています。

半田先生 1回挿入写真 HELP

9人殺害事件

 子どものSOSが大人の悪意によって、大きな被害につながった事件がおこりました。10~20代の9人の若者が殺害された殺人事件です。この事件は、2017年10月に発覚しました。被害者の中には、被害当時に高校生だった方も含まれていたため、スクールカウンセラーをしていた私自身にとって、非常に身近で差し迫った事件として感じられました。

 犯人は、Twitterに「死にたい」と投稿したアカウントに対して、個別にメッセージを送るなどして、被害者とつながりを持ったとされています(ウィキペディア日本語版、2021)。自殺念慮のある子どもや若者を意図的に狙って、犯行に及んだ非常に悪質な犯罪です。

 Twitterに「死にたい」などと呟くことは、子どものSOSです。身近な大人に訴えられないからこそ、または、訴えたけれどもサポートが得られなかったからこそ、子どもはインターネットの世界にSOSを出してしまうのだと思います。しかし、この事件が明らかにしたように、それは極めて危険なことだったのです。

 様々な事情から死にたい気持ちを抱えて苦しんでいる子どもたちは、自死に至るリスクに直面しているばかりではないのです。本当に残念なことなのですが、子どもたちは、大人の悪意によって深刻な被害を受けるリスクにもさらされてしまうのです。そのことが改めて実感され、私は非常に暗い気持ちになりました。

半田先生 1回挿入写真 SNS

この連載では

 こういったことから考えていくと、やはり、子どもにSOSを出すように求めることよりも、身近な大人が子どものSOSを受け止めることが大切ではないかと思います。

 そこで、この連載では、大人が子どものSOSを受け止められるようになることを目指して、聴き方や受け止め方についてお話ししていこうと思います。最初に、基本的なSOSの受け止め方について一通りお話しいたします。本来は、総まとめのような形で解説することが良いのかもしれません。しかし、子どもからのSOSは今日にでも、明日にでもあるかもしれないのです。だからこそ、最初に大切なことをお伝えしたいと思います。次に、話を聴くことについて解説していきます。SOSを受け止めるためには、傾聴の優れたスキルが必要だからです。その後で、SOSを受け止める際の難しいポイントについて具体的に解説したいと考えております。

文献
文部科学省 2021 「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(令和2年度)(第1回) 配付資料3 https://www.mext.go.jp/content/20210216-mxt_jidou01-000012837_003.pdf
内閣府 2015 自殺対策白書(平成 27 年版)
厚生労働省 2017 自殺総合対策大綱 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/taikou_h290725.html
厚生労働省 2021 令和2年版自殺対策白書 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsuhakusyo2020.html
東京都教育委員会 2021 「SOSの出し方に関する教育」を推進するための指導資料についてhttps://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/sos_sing.html
松本俊彦 2012 中高生のためのメンタル系サバイバルガイド 日本評論社
ウィキペディア日本語版 2021 「座間9人殺害事件」 最終更新 2021年4月20日 (火) 12:27UTC 最終アクセス2021年5月10日

執筆者プロフィール

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半田一郎(はんだ・いちろう)
スクールカウンセラー・子育てカウンセリング・リソースポート代表。
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー。

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