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オンライン臨床は「臨床」になれるのだろうかという問い(中村 洸太:NPO法人 日本オンラインカウンセリング協会 理事)#こころのディスタンス

コロナ禍の影響により、私たちの生活まわりで急激にオンライン化が進むなか、カウンセリングにも一大ムーブメントが到来しつつあります。従来の対面カウンセリングとの二者択一で捉えるのではなく、よりよい支援のための新たな可能性として、オンラインカウンセリングには期待できる点がたくさんありそうです。オンライン臨床の経験が豊富な中村洸太先生に、実践のポイントを交えながら、解説していただきました。

新型コロナ・ウイルスが遠隔カウンセリングを普及させた?

 これは、京都大学の杉原保史先生が「SNSカウンセリングのいま」の冒頭で挙げていた問いかけである。杉原先生は、新型コロナ・ウイルス感染症拡大下において、「情報通信技術を用いた遠隔のカウンセリングが急速に広がりを見せている。しかし、ここでの遠隔カウンセリングの広がりは、あくまで対面のカウンセリングができないからという消極的な理由に基づくものである」と述べている。

 筆者も同様の印象を受けている。筆者の所属するNPO法人日本オンラインカウンセリング協会は1998年に発足し、以来オンラインカウンセラーの養成や啓発、テキスト(文字)による相談支援を主に提供してきた。Yahoo!メールやHotmailが1999年頃に日本語での対応が可能になり始めた時期である。

 オンラインカウンセリングを学びに来られる方からは、「オンラインカウンセリングの時代がいつかくると思うんですよね」という言葉をよくいただいていた。

 その後、ネクストブレイク俳優ランキングに毎年ランクインするかのように、その言葉はくり返し参加者の口から語られ続けた。どうやらオンラインカウンセリングの時代はまだ来ていなかったようである。しかし、ついに大ブレイクする時代が2020年突如として到来した。

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 株式会社cotreeの櫻本真理氏が、「ウィズコロナの時代のメンタルヘルスケアと心理職のあり方について」の中で、「心理療法系の学会等に参加した時に『オンラインのカウンセリングなんて、自分たちのやってる心理療法とは別物』だと言われた」というエピソードを紹介していた。

 同様の経験をしつつも、オンラインカウンセリングを続けてこられたのは、協会の活動に参加してくださる方がオンラインカウンセリングの可能性を感じてくださっていること、そしてなにより相談を利用した方が「オンラインだから私は相談ができた」という声を寄せてくださったことに尽きる。

遠隔心理学とオンラインカウンセリング

 アメリカ心理学会の定義(日本心理学会訳)によると、遠隔心理学(Telepsychology)とは、遠隔でのコミュニケーションのための情報技術を用いた心理支援サービスの提供のことをさす。日本ではあまり馴染みがない表現かもしれない。

 「遠隔」、つまりは、相談者が目の前にいない状況で、電話やモバイル、ビデオツール、電子メール、チャット、SNSなどの情報通信技術を用いて行う支援のことを遠隔心理学遠隔心理療法と呼ぶ。

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 論文検索サイトCiNiiにて論文を検索すると(2020年6月25日時点)、遠隔心理学(0件)、SNSカウンセリング(1件)、オンラインカウンセリング(19件)という結果であり、オンラインカウンセリングという表現が比較的ポピュラーな印象を受ける。

 2020年4月以降、オンラインカウンセリングに関する問い合わせや、勉強会への参加者は増加傾向にある。対人支援職向け団体のAssembleと共同で開催したオンライン臨床に関するイベントや研修会にもたくさんの方が参加してくださり、以下のような感想をいただいた。

「日常もままならない中でオンラインカウンセリングを行うこととなり、知識や環境等たくさんの不安がありました」
「オンライン臨床の可能性はあるよなーと思いつつ、話をすると否定的な意見やリスク面が強調されてしまって安全に使用するのが難しいという結論になってしまいがちでした。そうじゃなく、可能性の方を強調していただけたので、活用可能性を実感できてとてもよかったです」

 突如到来したオンラインカウンセリングの時代に戸惑いながら対応を迫られている人も少なくなかったであろうし、改めてその可能性を感じた方もいたように思う。

オンラインカウンセリングの可能性

 さて、現在オンラインカウンセリングに着手し始めた方の中で、5年後もオンラインカウンセリングを行っている方はどのくらいいるのだろうか、そんなことを最近よく考える。

「やはり対面でのカウンセリングの方が情報量も得られるし、カウンセリングを同じ空間を共有して行うことに意味があり、目の前に人がいない中で行うカウンセリングはカウンセリングには思えない」

 実際にオンラインでカウンセリングを提供せざるを得なくなった心理職から、そんな言葉を聞く機会も何度かあった。その感想自体は、共感し得る部分もある。このようにオンラインカウンセリングは対面カウンセリングとの対立構造で語られることも多いが、そもそもその特徴は異なるものであり、それぞれに活かすべき特徴があるものである。

 コロナ以前からオンラインカウンセリングを実践している方々は、対面カウンセリングとの対立構造ではなく、それぞれの特徴を活かして、相談者の益となることを考えて活動されている方が多いのではないだろうかと推測される。もちろん、オンラインでは提供できないことや、相性の良し悪し、提供する側の得手・不得手などがあるものも事実である。

 大切なのは、どちらが優れているかという捉え方ではなく、それぞれの特徴に応じて共存することであると考える。インクルージョン&ダイバーシティの時代において、地域格差を減らすことや、多様なライフスタイルに対応した相談の仕組みが整うことによって心理支援の可能性はまだ広がるのではないかと思う。

 オンラインカウンセリングに関するリスクや、提供できる価値については引き続き検証していく必要がある。同時に、相談を希望する人たちのニードに応えつつ、よりよく提供するための実現の可能性を探り続けていく姿勢は大切にしたいと筆者は考えている。

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 コロナ禍においては、企業等でも実現が難しいといわれていたリモートワークや在宅ワークが突如可能となり(やらざるを得ない)、仕事のあり方が急激に変化し、業務内容の要不要の見直しなどが検証された例も少なくはない。実際、やってみたら「なんとかなった」場合も少なくはなく、これからは「それ以前」と同じように業務をこなすのではなく、在宅ワークなどの働き方を踏まえた上での、新しい働き方が検証されていくのではないかと考えられる。

 アフター・コロナ(ウィズ・コロナ)の働き方という言葉に象徴されるように、オンラインカウンセリングについても、コロナが落ち着いたとて、全く実施されなくなることはないのではないかと思われる。

 これまでは、関心を持った心理職を中心に提供されていたオンラインカウンセリングが、これからは年単位の時間をかけて、ガイドラインの整備や、実施していく上での臨床的構造を検証していくことが進められるのではないだろうかと思う。。そして、その作業自体は、対面のカウンセリングの価値を改めて再考する機会にもつながるのではないかと考えている。

「個室」を奪われたカウンセリング

 対面の価値という点については、「カウンセリングが実施される個室」の存在を痛感している人が多いように感じる。

 これまでであれば、支援者はカウンセリングの当日に相談者がカウンセリングルームに訪れるのを待てば、カウンセリングを提供することができ、相談者もカウンセリングルームを訪れればそれでよかった。しかし、ビデオツールなどを用いたカウンセリング(以下、ビデオカウンセリング)では、PCやタブレット、イヤフォン等の機器を各々が準備し、電波状況やセキュリティに気を配り、カウンセリングを実施するための「場所」を用意することが求められるようになった(余談だが、筆者はイヤフォンやスピーカー等の違いにより相談の中身に変化が起きるのかという点について非常に興味がある)。

 特に、相談者がカウンセリングを受ける場所を、自分で用意しなくてはいけなくなってしまったことは、かなりの負担があるのではないかと推測される。そもそも、日常の中でカウンセリングを受けるために必要な「場所」や「時間」をセットで設けられるのであれば、悩むことも少ないのかもしれない。

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 「場所」や「時間」を含めた「自分と向き合える個室」を相談者自身の負担により整える必要が生じたのは大きかったのではないかと感じる。この「個室」は、支援者と相談者が安心して二人でいられる場所でもあり、相談者が自分と向き合える場所でもあるという意味で、価値があるのだろうと思う。

 そして、その「個室」は、相談者にとっては日常の地続きにある場合も少なくないため、カウンセリング終了後に、カウンセリングと日常とを切り替えることに困難を覚える相談者もいたのではないだろうか。対面カウンセリングにおいては、カウンセリングルームを「退室」し、そこから「帰路に着く」という作業を通して、日常に帰っていく意味もあったように思われる。

 筆者は、ビデオカウンセリングを終える際には、目を閉じてカウンセリングと日常空間の切り替えを意識するように伝える、などを実践している。

ビデオ画面における空間の活用

 また、ビデオカウンセリングにおいては、非言語情報が得られにくい点がよく指摘される。物理的に同じ空間にいないことで相談者を肌感覚で掴みにくいことはもちろんだが、少なくとも顔は合わせている。しかし、支援者も相談者も顔をアップにして画面に映し出していることが、かえって非言語情報を狭めてしまっているのではないかと筆者は考える。

 つまり、表情は見えるのだが、全身が見えないので情報量が結果として少なくなるという点だ。筆者は、カメラから少し離れて、少なくとも上半身が映るようにすることを意識している。上半身を映すことで、支援者が画面の中で身体を動かしたりして空間を活用しやすくなるのだ。例えば、支援者が「前のめりになる」ことで「相談者への関心」を表現することや、「手の動きを使う」ことで非言語情報を用いてコミュニケーションをすることができるようになる。

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 また、ビデオカウンセリングにおいて、よく質問にあがることに、「目線」の問題がある。ビデオカウンセリングを実際にしてみるとわかることだが、目線を合わせるためには、お互いがカメラを直視しなくてはならないのだが、カメラを見ている以上、PC等の画面に映る相手と目を合わせることはできないのである。したがって、実際にやってみると、目線が合わないことへの違和感は軽減したという声は少なくない。

 相談者としても、相手と目線を合わせることが苦手な人にとっては、目線が合わずに面と向かって相談ができるビデオカウンセリングはありがたいという声も聞く。

 そうはいっても、目線を大事にしたい方もいるので、そういう方にとっても、カメラから離れることで、顔面のアップにならないため、目線を合わせるような感覚で話ができるようになることもある。

 このように、空間を上手に使うことで、顔だけで話を聞いているのではなく、全身で相手の話を受け止めているという非言語情報を伝えることが可能となるのである。

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 このようなTipsなどを積み重ねていき、臨床構造を磨き上げていくことが今後に期待される。東北福祉大学の平泉拓先生が「遠隔心理療法の実際」の中で、様々なTipsを紹介されているのでぜひご参照いただきたい。

※私はビデオカウンセリングの際には、背景を仮想背景にする設定は使わないようにしている。仮想背景にすると、人と背景の境目に生じ、細かい違和感を感じたり、集中しづらさを覚えたり、バーチャル感が上がるために人と話している感覚が薄らぐなどの声を耳にしたことが理由である。

 背景には「支援者の生活の色」が出ないように、物が映らないようにするなどを心がけている。しかし、中には仮想背景にすることで話しやすいという声もあるので、この辺りは支援者自身が実践していく中で、自分にとってやりやすい方法を見つけていってほしい。

 一方で、相談者が背景をどのような意図で設定しているかについては、ビデオカウンセリングならではのアセスメントも可能と考える。

指先に想いを託すテキストカウンセリング

 ビデオカウンセリングより、さらに情報量が少なくなるのが、文字を用いたカウンセリング(以下、テキストカウンセリング)である。

 情報量が限られるとはいえ、ビデオカウンセリングは相手の顔が見える中で実施するため、「対面」に近い感覚を覚える人もいるだろう。しかし、顔も素性も知らぬ人が書いた「文字」だけを頼りに相談することに対して、やりにくさや、違和感を覚える人は、ビデオカウンセリングよりも多いのではないかと推測される。

 テキストカウンセリングを実際に受けた相談者から、このような返事をいただいたことがある。ご本人の承諾を得たものをいくつか紹介させていただく。

「人に会うのが怖くて、電話も声が詰まってしまって、誰にも自分の辛い気持ちを話すことなんてできないと思っていました。想いを言葉にして、それを誰かが聞いてくれることの安心感がありました」
「なかなか人に話せないことを聞いていただいて本当に感謝しています。読み返す中で、自分でも気づいたら、少しずつこんなふうに考えてみようかなとか、ここで相談したらこんなふうにやり取りができるかなとか、そんなふうに考えるようになってきました」
「お話を聞いていただいて、自分のしてきたことを認めていただいたような感じで、それだけですごく心が落ち着きます。ありがとうございます。聞いてもらうだけでもこんなに軽くなるんですね。…(中略)…誰かが読んでくれていると思うと安心しますね」
「対面や電話で相談するカウンセリングは私にはしんどく、時間を決めてのリアルタイムなチャットも、スピードや"対人"感が苦手で難しかったので、気軽にメッセージができるこちらが、本当に本当にありがたかったです」

 テキストカウンセリングによる支援においても「話す」「聞く」という表現をしていることから、文字であっても「対話」は可能であり、テキストだからこそつながることができた人がいるということを強く感じることができたコメントであった。

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 日記などの場合、文字にすることで自分の頭の中を整理し、書き出す=吐き出すことで、気持ちを落ち着かせる効果があることが考えられるが、テキストカウンセリングの場合は、「自分の想いを託した言葉」を受け止めてくれる人がいるというところに醍醐味があるように考えられる。

非言語情報を言語化するテキストカウンセリング

 ここで、テキストカウンセリングを実施する上で、意識としてお伝えしていることをいくつかご紹介したいと思う。

 対面での相談であれば、支援者はうなずきや表情、アイコンタクトで共感や受容を非言語情報により相談者に伝えていく。例えば、うなずきは日常においても頻繁に用いられるもので、馴染みのある技法のひとつであるように思う。うなずきが会話を促進させる強化子としての意味をもつことは多くの研究によって実証されている。

 しかし、画面を見ながらうなずいていても、相談者には何ひとつ伝わらない。うなずきには、受容や共感、話の理解を示すなど様々な意味が込められている。その一つひとつを言語化していくことが必要となる。例えば、相談者が「辛いんです」という言葉を発した際に、対面であれば、その想いをうなずくことで受け止めることもできるが、テキストであれば「それは大変辛い状況でしたね」と明確に言語化して伝えることが求められる。

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 また、筆者は「初音ミクが読み上げても、受け止め方に齟齬がないように意識して文章を作成する」という言い方で説明をするが、支援者が書いたトーンと同じように相談者がその文字を読むとは限らない。文字は時にダイレクトに伝わることがあり、「なぜ」という言葉は、使う側が思うよりも、受け止める側は強く受け止めてしまう場合がある。「そのように思ったのは、何か理由があったのでしょうか」など、言い方を柔らかくした方が伝わりやすい場合もある。

 表現を柔らかくするという点では、「そんなことがあったんですね…」というように「…」などを使って余韻を表現することなども方法のひとつである。

 また、言語情報であるテキストには多大な非言語情報も詰まっている。言葉の選び方、表現の仕方、行間の作り方や改行の仕方などの体裁、漢字の使い方などから相談者の様子が浮かびあがってくることもある。ぜひ、テキストから見えてくる非言語情報にも目を向けるような意識を持っていただけると嬉しいものである。

 枚挙にいとまがない話ではあるが、オンラインカウンセリングならではのアセスメントやコツがたくさんある。ぜひ、その奥深さに興味を持っていただけたら幸いである。

オンラインカウンセリングは一発屋なのか

 2020年にオンラインカウンセリングの時代が突如訪れたと記したが、オンラインカウンセリングはこれまでにも確実に存在していたし、その意義は確かに感じられていた。そして、これから時間をかけてさらに普及・発展していくものでもあると思う。

 オンラインカウンセリングは臨床ではないという意見もあるが、それを決めるのは支援者なのか、相談者なのか。いずれにしても、オンラインカウンセリングのニードがあるのであれば、そこに応え、より良い支援が提供できるように知見を蓄積していく作業はこれからも精励恪勤に続けていきたいと考えている。

 興味を持っていただけたら、当協会のLINE相談の事例演習会のご参加や、拙著『メールカウンセリングの技法と実際』などご参照いただければ幸いである。

 これからも、オンラインカウンセリングの可能性を形にしていくことを、一人でも多くの方と実現していけたら恐悦至極である。心理支援を一人でも多く、必要とする人に届けることが可能となる仕組みを整えることを念頭に置いて、オンラインカウンセリングの未来を切り開いていきたい。

▼参考

◆公益社団法人 日本心理学会「遠隔心理学の定義」

自殺対策におけるSNS相談事業 (チャット・スマホアプリ等を活用した文字による相談事業) ガイドライン

▼執筆者プロフィール

中村 洸太(なかむら こうた)
NPO法人 日本オンラインカウンセリング協会 理事
博士(ヒューマン・ケア科学)。臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー。
心療内科・精神科クリニックや大学病院勤務などを経て、現職。教育領域や産業領域での臨床を中心に、性的マイノリティのメンタルヘルスやオンラインを用いた臨床活動の研究や実践など多岐にわたって活動。現在、駿河台大学、聖学院大学、ルーテル学院大学等にて産業・組織心理学などの教鞭を執る。

▼著書

▼活動

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