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【第二回】SNS・HP上の宣伝文言の注意点(三浦光太郎:弁護士・Ami代表)連載:メンタルヘルスと法律

1.はじめに

 カウンセリングを提供している多くの方は、ホームページでカウンセリングのご説明やSNSを介してカウンセリングルーム等のご紹介をしているかと思います。その際に、クライエントさんの声やカウンセリングの効果等を記載する場合がありますが、カウンセリングを届けたいという思いが強すぎるあまり、つい「筆が滑って」はいませんか?

 今回は、カウンセリングの広告に関する法律について解説します。

 なお、本記事では引用書籍等の情報が多いため本文中ではなく記事末尾にまとめています。

2.ホームページにクライエントさんの声を掲載してもいいですか?

(1)そもそも利用した感想を書くことが問題になるんですか?

 利用者の体験談や感想をホームページに掲載する程度であれば法律上問題がないと思われる方もいらっしゃるのではないしょうか。実は、体験談や感想を掲載することが法律上規制される場合があります。例えば、医療法では、「患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告をしてはならないこと。」及び「治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告をしてはならないこと」(医療法第6条の5第2項第4号及び第6条の7第2項第4号、医療法施行規則第1条の9第1号及び第2号)と定めて、体験談や患者のビフォーアフターを掲載することを制限しています。このように体験談や感想を掲載することが規制される場合があります。

(2)クライエントさんの感想を書くと問題になりますか?

① 医療法による規制は受けますか?

 それでは、クライエントさんのカウンセリングの体験談や感想をホームページ等に掲載する場合はどうでしょうか。

 上記で挙げた医療法との関係では、もしカウンセリングが「医業」(医療法第6条の5第1項柱書)に該当する場合には医療法の適用を受けるため、カウンセリングの体験談や感想をホームページ等に掲載することについて医療法による規制を受ける可能性が高いと考えられます。もっとも、「公認心理師が行う支援行為(筆者注:支援行為は公認心理師法第2条各号に定める行為でありアセスメント等をいいます。)は、診療の補助を含む医行為には当たらない」[1]とされていることを前提にした場合、公認心理師が行う支援行為は一般的に「医業」(医行為を業として行うこと)に該当する可能性が低いと考えます。しかし、カウンセリングの技法・理論やその他の資格者がカウンセリングを行う場合によっては結論が異なりうるため、個別具体的に「医業」に該当し医療法の適用を受けるか否かを検討する必要があると考えます。なお、「医業」の定義については最高裁令和2年9月16日判タ1487号161頁等をご参考ください。以下では、カウンセリングが「医業」に該当せず医療法が適用されない前提で説明します。

② 景品表示法による規制を受けることがあります。

 医療法が適用されない場合であっても、広告一般を規制する法律である景品表示法の適用を受ける可能性があります。また、景品表示法は個人事業主であっても適用を受けるとされていますので[2]、カウンセリングを提供する方は広く適用を受けるものと考えられます。

 そして、景品表示法は、優良誤認表示(商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示)及び、有利誤認表示(商品やサービスの価格などの取引条件について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示)を禁止しています(景品表示法第5条第1号及び第2号)。このように禁止されている広告の具体例として、以下の事例が公正取引委員会から示されています。

「使用者からの感激の体験談」と称し、使用前と使用後の顔写真とともに「五日後には顔中のニキビが消え、ツルツルの肌になれました。」と表示しているが、実際には、使用前の顔写真はモデルに特殊な化粧を施した架空のもので、体験談の内容も実際の体験を記載したものではないにもかかわらず、そのような事実や効能があるかのように表示すること[3]。

 クライエントさんの体験談や感想を掲載し、優良誤認表示又は有利誤認表示になってしまった場合には景品表示法上規制を受けます。体験談や感想の内容がクライエントさんに誤解されるような内容(例えば、カウンセリングは万能薬でありどのような病気にも効果があるといった「書きすぎた」記載)にならないように(優良誤認表示又は有利誤認表示に該当しないように)注意なさってください。なお、内容だけでなく、誤解を招くような表示方法にも景品表示法上の制約が及びますので、表示方法もご留意ください。

③ 口コミにも注意が必要な場合があります。

 一般的に、「消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない」[4]とされています。

 カウンセリングの体験談や感想をクライエントさんが掲載する場合、カウンセリングを現に利用した又はカウンセリングの利用を検討している方が書き込んだ情報です。そのため、一般的には規制対象となる「表示」(景品表示法第5条柱書)に該当せず、景品表示法上の問題が生じる可能性は低いと考えられます。

 しかし、「商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合に、景品表示法上の不当表示として問題となる。」[5]と指摘されています。そのため、クライエントさんによる口コミ情報であっても、口コミの依頼等をしている場合には、景品表示法上の不当表示が問題になる場合がありますので注意が必要となります。

3.カウンセリングでうつ病が「必ず」治ると書いてもいいですか?

① 医療法による規制を受けますか?

 上記と同様にカウンセリングの内容次第で広告に対して医療法の適用を受ける可能性が否定できず、医療法の適用を受けるか否かは個別具体的に検討する必要があります。仮に広告に対して医療法の適用がある場合、どんなに難しい手術でも必ず成功させます等の記載は、絶対安全な手術等が医学上あり得ないので、虚偽広告として取り扱うとされています[6][7]。そのため、カウンセリングでうつ病が必ず治るとの表示も虚偽広告として医療法第6条の5により規制される可能性が高いです。

② 景品表示法による規制を受けることがあります。

 広告が医療法の適用を受けない場合であっても、優良誤認表示に該当するとして景品表示法の適用を受ける可能性があります。優良誤認表示に該当する事例として消費者庁が以下の事例を挙げています。

「150もの慢性疾患を治療する治療法です。」、「そしてこの治療は対症治療ではなく、原因除去による治療であるため、的確な治療法がなくて長年困られていた方にとっては、特効的作用に驚かれます。」等と記載することにより、あたかも、対象役務の提供を受けることで、顎関節症、睡眠時無呼吸症候群、腰痛、椎間板ヘルニア、坐骨神経痛等の特定の疾患又は症状が治癒又は改善するかのように示す表示[8]

 このように、一般消費者に対して、社会一般に許容される誇張の程度を超えて、商品・サービスの内容が、実際のもの等よりも著しく優良であると示す表示である場合には、優良誤認表示とされる可能性が高いです。特に、合理的な根拠がない効果・性能の表示は、優良誤認表示とみなされます(不実証広告規制といいます)[9]。カウンセリングでうつ病が必ず治るとの記載は、医療法上の虚偽広告と同様に絶対安全な手術等は医学上あり得ないとの理由により、優良誤認表示に該当する(不実証広告に該当し優良誤認表示となる場合を含みます。)可能性が高いと考えられます。なお、うつ病に効果がある等のカウンセリングの効果を示す記載を掲載する場合にも同様に優良誤認表示とならないような記載を行う注意が必要です。

4.広告に関する法律は何がありますか?

(1)カウンセリング等の提供するサービス・物品に関連する法律

 これまでに説明しました景品表示法や医療法だけでなく、カウンセリングの内容やカウンセリングに伴い提供する物品やサービス等がある場合には、医師法、薬機法や健康増進法、特定商取引法等の多様な法律による規制が受ける可能性があります。例えば、「うつ病の支援ができる」との記載は、支援の内容によっては「医行為」に該当するとして医師法や医療法の適用対象になる可能性が考えられます。また、上記で挙げた法律は、提供するカウンセリング等のサービス・物品の広告に関しても適用される場合があります。

(2)広告の作成や掲載に関連する法律

 広告の作成や掲載に当たっては、上記に挙げた景品表示法等に加えて、著作権法やプロバイダ責任制限法にも注意が必要です。例えば、ご自身のホームページに掲載する説明や紹介、画像等として他の方が作成したものを利用する場合には、適切に引用を行っている等の著作権侵害の防止策を行っているかをご確認ください。また、体験談や感想を掲載する場合にはクライエントさんの個人情報への配慮が必要となりますので、第三者提供に関する事前承諾の取得等の対応にご留意ください。

5.おわりに

 ホームページ作成やSNS運用に当たり、カウンセリングを提供されている皆さんは高い倫理感に基づきクライエントさんの誤解を招かないような表現を心がけていることと存じます。しかし、カウンセリングの良さを伝えるためにわかりやすい説明や目を引きやすい記述を用いますと、思いもよらぬ法律上の規制に引っかかってしまうことがあります。また、広告表現は非常に多くの表現方法があり、それに伴い法律上の論点が多く存在するため、今回の記事はカウンセリングの広告に関する法律上の論点の一部を取り上げたものに過ぎないことにはご注意ください。今回の記事を契機に、ホームページ等の記載を見直して適切な表現になっているか否かを検討する一助になれば幸いです。

 前回の記事は心理職やそうでない方を含め多くの方に読んでいただいたようで大変嬉しく思います。カウンセリングを提供される皆様やメンタルヘルス業界に属する皆様、その他の多くの読者の皆様にとって、本記事がご自身のサービスを提供する際の参考になれば幸いです。

 なお、本記事の内容は私個人の意見であり、所属する法律事務所及び団体の意見を代表するものではないことにご注意ください。

6.引用文献等

[1]文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課及び厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課 公認心理師制度推進室「公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」2頁(2021年11月1日最終閲覧)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000192943.pdf
[2]消費者庁「指針に関するQ&A」Q2(2021年10月31日最終閲覧)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/guideline/#q2
[3]公正取引委員会「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」3頁(2021年10月31日最終閲覧)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_38.pdf
[4]消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」5頁(2021年10月31日最終閲覧)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/e_commerce/pdf/koukoku.pdf
[5][4]と同じ。
[6]厚労省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」6頁(2021年10月31日最終閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/000772066.pdf
[7]厚労省「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説」5頁(2021年10月31日最終閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/000808457.pdf
[8]消費者庁表示対策課「景品表示法における違反事例集」45頁46頁(2021年10月31日最終閲覧)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/160225premiums_1.pdf
[9]景表法第5条1号及び第7条第2項、消費者庁「事例でわかる景品表示法不当景品類及び不当表示防止法ガイドブック」6頁、7頁(2021年10月31日最終閲覧)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_160801_0001.pdf

執筆者プロフィール

三浦光太郎(みうら・こうたろう)
弁護士(第二東京弁護士会所属)、Ami代表。中央大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了。主な取扱業務は、個人情報保護、メンタルヘルス、不動産関連、一般企業法務等。メンタルヘルスケア事業者やカウンセラー向けには、利用規約やプライバシーポリシーの作成、サービス提供に関する法務アドバイス等を提供。
弁護士のメンタルヘルスの課題解決並びに弁護士及び心理職(臨床心理士等)との協働を実現するため、Amiを立ち上げ、公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士とともに、弁護士向けのメンタルケアサービス等を提供している。

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