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大人の孤独のリアル(大阪教育大学名誉教授:白井利明) #孤独の理解 「孤独と成長」続編

昨年の「特集 孤独の理解」で「孤独と成長」をお書きいただいた白井利明先生に続編をご寄稿いただきました。

    孤独が成長にかかわるのは青年期だけではない。年代別の大人の孤独の感じ方や対処法から、大人の成長とのかかわりを考える。 

17歳の孤独

    まず17歳の高校3年生(女性)から見ていきたい。なぜ高校生なのかと思われるかもしれないが、17歳は大人の心が芽生える年齢である。Aさんは「数人で話している輪に入れない時、さみしい。好きな人が他の人と楽しそうにしている時、ズーンと沈む。受験で家族や友人と思うように出かけられない時、かなしい」と言う。対処法は「次の機会をうかがう。一人の時でも映画や動画を見たり、勉強など今後につながることをする」であり、その結果「話せるようになる。その世界にひたって笑ったり感動する。新しいことを知る。知っていることを確認する」と言う。ここでは孤独を自分で克服するというフォーマットができている。自分で自分を手当てして回復していくことは自律である。Aさんの孤独の対処は未来に投資し、成長につなげるやり方である。これは青年期にできて、大人がしていることである。 

20代の孤独

    20代女性のBさんは、孤独を感じるのは「わいわいしたところから一人になる時。お風呂に入る時。ふとした時。周りはすぐに退勤し自分だけ残り、暗い夜道を帰る時」と言う。対処法は「おいしいものを食べる。お酒を飲む。人に話す、人と話す」である。その結果「スッキリ。言える」と言う。このような時々の出来事のもたらすストレスに対処することは心理学ではストレス・コーピングモデルで説明される。このパターンはすでに見たように青年期にできあがる。しかし、いつもそのようにいくとはかぎらない。ストレスが慢性化し、個々の出来事への対処で済まなくなることもある。それが人生の課題と関係し、成長を求めることにもなる。 

30代の孤独

    30代女性のCさんは、「友だちはほとんどが子育てをしているため、食事など(遊び全般)誘いづらい。みんなの子育てが終わるまで一人でできる遊びが得意になっていくのだろうと思う」と言う。対処法を尋ねると、「対処できていない。検討中」と答えた。そして、「一人暮らし一年目なので、今は一人の時間を楽しんでいる」と言う。Cさんはこの孤独が一時に終わらないものとして受け止め、これからの自分の在り方を模索しているのだろう。大人が年代を重ねることで直面する孤独は人の生活のあり方によって違うが、Cさんのような体験を持つ方も少なくないだろう。これも年代の重ね方から派生する孤独と言える。

40代の孤独

    孤独の原因は他者を失うことだけではない。哲学者の三木清は「孤独は山になく、街にある」と言った。他者とのかかわりも孤独をもたらす。40代女性のDさんは、「夫は単身赴任のため、大切な人に理解されていないという事が孤独感なのだと思う。子どもが不登校になった時も、家にいないので、相談しても生の感覚が伝わらず、話を聴くというより一般的なアドバイスと焦りだけぶつけられた気がした。本当に大変な時に支えてくれなかった、という気持ちは恐らく消えることはない。夫には伝えていないけど、溝ができたと思う」と言う。身近な人との間で生まれる齟齬そごをどう解決していくのかはその後の成長に重くのしかかる問題である。ところで、意外にも、Dさんは、次のように続ける。「一人になりたい! 孤独になりたい! とよく感じる。自由がほしい。子どもたちは心から大切だけど、自分の時間が心からほしい。子どもたち3人が全員登校すると、孤独だ!! と感じる瞬間が心から幸せに思う」と言う。子ども中心で生活が回っているDさんにとって、孤独は自分が自由に使える時間となって幸福感を高めるのだろう。

50代の孤独

    孤独を感じないと言う人もいる。50代女性のEさんは、「表だってグループを外されたりしたら感じるが、個人的にはあまり感じないタイプ。人はやはり別々(家族でもそれぞれ)でいいと思い、それを尊重していけばよいと思う」と言う。Eさんはむしろ連帯を感じる時と方法を教えてくれた。「職場の人、ママ友、気の合う趣味仲間など、同じ目標(ゴール)に向けて話したり、行動したりする時に感じる。一人では感じられない、強い感情が生じて、『人は一人では生きていけない。ありがとう』という思いを持てた時、幸せを感じる。獲得方法は、①一緒に話す、行動する、そばにいる、etc、②口に出して(再認識する)感謝を伝える、③まず一歩を踏み出す(不安に思うのなら、とりあえずやってみる)」とのことだった。Eさんは孤独を恐れず、他者と積極的にかかわる方なのだろう。一般的に言って、人生の残り時間を考え始める中年期になると、自分が今までしたくてもできなかったことに向かって一歩を踏み出していこうとする方が少なくない。また、そのような方は、たとえば家庭中心で辛かった30代、40代を振り返って、今までになかった意味づけをするようである。そのような成長はEさんの前向きな姿勢と共通するものがあると思われる。 

70代の孤独

 もう一人、70代男性のFさんは、「若い時から一人が好きなので孤独感はあまり感じた事はない。もちろん少ないが何でも話し合える親友はいる。またそういう人しか親友にしない。相談する事もあるが、あくまでも解決は個人。友人も心の中までは入って来ない。傷つくのが怖いということもある。淡泊で心地よい関係である。とにかく人間関係に悩まされる事なく静かに生きていきたい」と答えた。他者に求めすぎず、自分の気持ちを大切にながら相手を選び、自他がともに楽にいられる関係を作っているのだろう。これはFさん自身の若い時からのやりかたであろうが、他方で、ある程度の年代になると、他者の目を気にすることなく、自分自身であろうとすることが多くなるようである。これも人生の締めくくりに向けて成長していくことと関係しているのではないだろうか。

 以上、大人の孤独のリアルを見てきたが、もちろん、孤独の原因もあり方も多様だし、感じ方にも大きな個人差がある。したがって、ここで述べたことが各年代の代表的なものとは限らないことは断っておきたい。何よりも、孤独の対処法に正解があるわけではないだろう。この点に関心がある方は参考文献を見ていただきたい。青年期が中心だが、大人に通じる孤独の心理のメカニズムが分かる。 

謝辞
孤独と対処法について教えていただいた方々にお礼申し上げます。趣旨を変えない程度に書き換えてあるところもあります。

参考文献

[1] 伊森裕平 (2023). 自閉症スペクトラム指数が高い大学生の孤独感——現象学的視点からのアプローチ—— 青年心理学研究, 34(2), 47-65.

[2] 加藤結芽 (2022). 親友との関係における青年の葛藤——内的作業モデルと心理的距離に着目して—— 青年心理学研究, 34(1), 19-38.

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執筆者

白井利明(しらいとしあき)
愛知教育大学卒業、東北大学大学院博士課程中退、大阪教育大学助手、助教授、教授を経て、2022年4月より大阪教育大学名誉教授。専門は、発達心理学・青年心理学。主著は、『<希望>の心理学』(講談社(現代新書)、2001年)。第5回青年心理学会賞受賞(2011年)。第3回国際時間的展望学会招待講演(デンマーク、2016年)。現在、日本青年心理学会理事長。

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