【第3回】在宅勤務で座る位置を変える?:全てのことがメッセージになりうる(吉田克彦:合同会社ぜんと代表)連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー
ブリーフセラピーはちょっとした工夫の積み重ねであることの例として1回目は、日常のブリーフセラピー的な工夫について紹介しました。前回(第2回)は、ブリーフセラピー的な工夫をする上での相互作用の視点について「カラス進入禁止」の貼り紙を例に考えてみました。今回は、メールカウンセリングのひとコマから、相互作用(拘束)が対人関係だけではないという事例を紹介いたします。
在宅勤務の座る位置
新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちのフィジカルだけでなく、むしろそれ以上にメンタルに影響を与えたように思います。新型コロナウイルスへの感染は防いでいる人であっても、新型コロナウイルスの感染拡大によるメンタルへの影響は多かれ少なかれ皆が受けているのではないでしょうか。
筆者が実施している定額制メールカウンセリングサービスで相談を受けた事例を1つ紹介したいと思います。なお、この事例を含め本企画で紹介する事例は全て、事例掲載の許可を頂いた上でプライバシーなどに配慮し改変しています。
Aさんは、筆者が提案した2つを実行したところ、在宅勤務のペースもつかみ、仕事量もオフィスで働くとき以上の成果を出せるようになった。いまでは、「在宅勤務をとても楽しめるようになり、出社と在宅でバランスよく働けている」という。
家で仕事ができないのは「なまけ」や性格が原因ではない
私たちは、普段の生活では常に快適を目指しています。家での定位置では「テレビが見やすいように」「寝転がりやすいように」「間食がしやすいように」と、リラックスしやすい環境を知らず知らずに整えている人も多いのではないでしょうか。つまり、私たちは家でリラックスするように“拘束”されているわけです。「家でリラックスしてしまい、仕事に集中できないのは、個人の意志の弱さや性格などが原因ではない」この考え方がブリーフセラピーの前提となります。その上で、今回の対応を振り返りましょう。
①家での過ごし方に対する「リフレーミング」
筆者はまず、共感をした上で、「家=休む場所」というAさんのフレームを、「今後家庭を築くことを考えているのであれば~中略~作業(仕事ではなくルーティン)を取り入れるいいタイミング~後略」と伝えました。これは、「リフレーミング」という技法です。ここで押さえたいことは、将来Aさんが家庭を築くかどうか、親の介護を実際にするかどうかは重要ではありません。結婚願望がない、あるいは親の介護をする必要がない場合は、それに合わせて別な提案をするだけです。
いずれにせよ、メタファーなので実行するかどうかではなく、こちらの新しいフレームにAさんが触れて拘束の幅が広がったことが重要なのです。
②座る位置でパターンを変える
いつも座っている定位置と反対側に座れば、視界が変わります。それは、非日常の空間となります。いわば、「環境との相互作用によって、仕事に集中するように拘束されている」といえます。これもフレームを広げることで、別の拘束を生み出しました。
テーブルの反対に座るというのは一見単純なことのように思いますが、反対側に座るために、例えば、テーブルを若干ずらす、椅子(あるいはクッションや座布団)の位置を変えるといった些細な変化が生じます。この動きがオン/オフのスイッチの代わりになったのかもしれません。
今回紹介した事例は、「家でただ座る位置を変えた。それだけのこと」とも言えます。「人の心と関係がないじゃないか」という意見もあるでしょう。しかし事例で用いた①リフレーミングや、②パターンを変えるという技法は、確実に人のコミュニケーションに影響を与え(拘束し)ます。特にリフレーミングなどは認知行動療法をはじめ他の心理療法でも使われますが、ブリーフセラピーでの「リフレーミング」は独自性があると考えます。詳しくはまた改めて紹介したいと考えています。
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