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【第4回】家族は些細なことで(良くも悪くも)変化する(吉田克彦:合同会社ぜんと代表)連載:家族療法家の臨床ノート連載―事例で学ぶブリーフセラピー
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【第4回】家族は些細なことで(良くも悪くも)変化する(吉田克彦:合同会社ぜんと代表)連載:家族療法家の臨床ノート連載―事例で学ぶブリーフセラピー

「こころ」のための専門メディア 金子書房

 カウンセラーに限らずだれでもブリーフセラピーが活用できるようにと、前回まで日常的なブリーフセラピー的な場面をご紹介してきました。今回からは、実際のカウンセリング事例を元に、よりブリーフセラピーの考え方について紹介していきたいと思います。カウンセリング事例ではありますが、家族の問題ですので、日常場面でも役立つ内容になっております。考え方は非常にシンプルですので、難しく考えずに読んでいただければ幸いです。

ワンダウン・ポジション

 意識する・しないにかかわらず、カウンセラーとクライアントの関係は、上下関係にも似た状況になることが多くあります。クライアントはカウンセラーのことを「先生」と呼ぶこともありますが、この「先生」という言葉(テキスト)には「教える人」「指導的立場の人」という意味(文脈・コンテキスト)が込められています。

 ブリーフセラピーでは、この関係性を意識し、状況に応じて利用します。介入の効果を高めるために、あえて権威性を高めることもあります。しかし、多くの場合は上下関係を弱め、時にはクライアントを先生に仕立てることで問題解決につなげることもあります。

 カウンセラーとクライアントの関係だけでなく、家族や職場などクライアントを取り巻く周囲の人との関係性もとても重要になります。この関係性を変えることで、パターンが変わることが多くあります。

 ここで、東日本大震災後の被災地心理支援での事例を紹介しましょう。今回のコロナ禍でも、コロナ離婚・コロナ再婚といった話題がありましたが、災害は家族システムに大きな影響を与えます。

【事例の概要】
 20代の息子(本事例のIP=相談で患者とみなされた人)の家庭内暴力に悩む母親からの相談があった。母親の腕はアザだらけで、見るも痛々しい状態である。母親は「どこの施設でもいいから一刻も早く子どもを預けてしまいたい」「それができないなら私が消えてしまいたい」と訴えていた。公的な相談機関にも相談したが、子供が成人していることと、預ける施設のあてがないことから門前払いされ、やむなく相談室に駆け込んできた。母親は自分の力ではどうしようもないと無力感を抱いているようだった。
 息子は高校卒業後、数年はアルバイトをするも長続きせず、バイト先を転々としており、最近ではアルバイトをしようという意識も低下しているようである。夫婦は数年前に離婚。当初、息子は父親(元夫)に引き取られた。離婚から数年後に東日本大震災が発生。その後、元夫が行方知れずになり、息子は母親の元に転がり込んできた。
 母親は相談の場で堰を切ったように話し続け、離婚理由(元夫からのDV)や母親自身が幼少期に受けた虐待経験なども話された。しかし筆者は、そのあたりは焦点化せず、今現在の母子のコミュニケーションにまずは焦点を当てて聞き取りをした。

 この時、母親は自身の幼少期の被虐待経験や元夫からの暴力体験と、現在の息子から家庭内暴力について関連があるかのように語られました。ここで、母親の語りが正しいかどうかは重視しません。この面接では(あからさまなほどに)話題を変えて、ブリーフセラピーの基本通りに普段のコミュニケーションを探ることにしました。

 話題を変えることで、息子の暴力はそれらの話を聞かなくても解決するというメッセージになりました。「あからさまに話題を変えることで、クライアントの気分を害するのではないか、それでもお前はカウンセラーか」というご意見もあるでしょう。もちろん、面接が継続され、こちらの提案を(実行するかどうかはどうでも良く)聞いていただかなければ意味がありません。言葉だけではなく非言語も使い、あらゆる方法で関係を維持しつつ、進めていきます。このやり取りこそがブリーフセラピー成功の鍵だと思いますが、文章力がなく十分に表現ができずに申し訳ありません。例を挙げれば、皆さんの疑問に先回りしてあらかじめお断りを入れるこの文章のように、相手が抱くであろう疑問に先回りする反論処理などもその1つです。

 では、親子のコミュニケーションを見ていきましょう。

【母と息子のコミュニケーション】  
 現在、息子はバイトをせず、ほとんどの時間は自室にこもっているという。母親が息子の部屋の汚れが気になり、「洗濯をしたいから洗い物を出してほしい」などと声掛けしても息子は動かない。
 息子が動かないため、母親は強い口調になっていく。すると、息子は母親に聞こえる声の大きさで独り言(母親に対する侮辱)をいう。
 それでも、聞こえないふりをして母親は洗濯について声掛けを続けながら、息子の部屋に入っていき散らかった洗濯物を集めていくという。
 その後、息子は不機嫌になっていき、最終的に壁を叩いたり、部屋に散乱する洗濯物をかき集めている母親の腕を掴み、部屋の外へ押し出す。母親は強引に部屋を追い出され、息子は母親を追い出し自室にこもる。
 しばらく経つと、また家事のことで母親が息子に声掛けをして、息子がそれを無視。母親の口調が強くなり、息子が独り言(母親に対する暴言)を聞こえるように言う。

 このようなパターンが繰り返されていることがわかりました。図に示すと以下の通りです。

 筆者が聞き取ったパターンを元に、母親の言葉かけにポイントを絞りました。もちろん、息子の乱暴な言動を改善することが狙いですが、ブリーフセラピーの場合は息子の乱暴な言動に直接介入することは避けます。なぜなら、直接介入で収まるのであればとっくに問題解決しているはずだからです。現在でも問題が維持存続しているということは直接介入が効果的でないことを示しています。特に今回は、母親が相談に来ていますので母親に協力を仰ぐのが一番確実で早いのです。 

【介入と提示方法】
 筆者は、まず大変な状況の中で母親が来談した努力をねぎらった。 その上で、母親が息子に声をかけても息子が洗濯物を出すなどしないということは、母親が声掛けをしなくても今より悪くなることはないことを確認した(=「偽解決」の明確化)。
 その上で、面接の最後に、次回面接まで毎朝息子に(相手からの返答がなくてもいいので)簡単な挨拶をすることと、母親がため息や「こんな家もうイヤだ」などのネガティブな口癖を言ってしまったあとに気づいた時だけでいいので、「またやっちゃった。ごめんね」と一言付け加えるように提案した。さらに、1日3行の日記を書くように伝えた。母親が要望していた、息子を施設に預けることについては、次回面接でゆっくり話そうと伝えた。

 まず、介入前に母親をねぎらうことはとても重要です。カウンセリングで“新たな働きかけ方”を提案する場合、言外に“これまでの働きかけ方”の否定が含まれていることに意識を向ける必要があります。つまり、母親のこれまでの働きかけ方を否定し、母親の接し方が原因であったかのように誤解されるのを防ぐ必要があります。そのために、あらためて母親のこれまでの働きかけ方を肯定し、母親をねぎらうことが欠かせないのです。その上で、言葉かけをしても息子が洗濯物を出さないということは、言葉かけの必要がない可能性について問いかけ、母親も同意をしました。この手続きを踏まえて初めて、介入が威力を発揮するのです。

問題以外のところでコミュニケーションをはかる

 言葉かけの必要がないことへの母親の同意を得たことで、洗濯物にまつわるコミュニケーションが減らすことに成功しました。

  そこで、介入内容として、まず「挨拶」を提案しました。これは、母親と息子のコミュニケーションを聞き取った際に、親子の会話が「洗濯物を出さないといった問題」や「相手に対する非難」しかないように見えたからです。これでは、親子は「問題」か「相手への非難」で会話をする以外は、没交渉となってしまい、コミュニケーションをとるためには問題が必要になるという「ダブルバインド(二重拘束)」状況になっていました。そこで、他のトピックでコミュニケーションをとる必要があり、準備が不要で誰でもできる挨拶を提案したのです。

家族ホメオスタシスについて

 話がそれますが、本事例に限らず、「問題にまつわる会話しかしていない家族」や「問題があることで結びついているように見える家族」の事例は非常に多いです。問題があると、常に問題を介したコミュニケーションが増えてしまいます。そして、問題以外のコミュニケーションが極端に減ります。これは仕方のないことです。しかし、「コミュニケーションのためには問題が不可欠」な状況になってしまい、一種の疾病利得のような状態になってしまいます。「子どもがみんな巣立ったら離婚する」などという熟年離婚という言葉が一時期はやりましたが、それらの夫婦の一部には、子どもの話題を通じてのみコミュニケーションが取れていたが、子どもが自立し話題にすることがなくなりコミュニケーションがとれず関係を解消したのかもしれません。

 以前の家族療法では、何らかの問題があることによって家族が安定し、その問題が解決すると別の問題が生じると考えられていました。ブリーフセラピーに対して、頻繁にいわれる「問題の根本的に解決していないから、また別の形でさらに厄介な問題が出るに違いない」という問いかけにも関連してきますが、私たちは問題が存在する必要のない相互作用に変えてしまうので、「さらに厄介な問題」を恐れる必要はないのです。もちろん、人の一生、そして他人とのコミュニケーションにおいて、今後もさまざまな問題は起きるでしょう。でも、それはそれ。決して今回根本的に解決していないから、新たな問題が出てくるのではありません。むしろ、根本的解決などしなくても問題が解消するという成功体験ができることで、新たな問題が起きても「まぁ、何とかなる」と楽観的な対応ができるでしょう。統制をとって比較するわけにいかないので、確かめようがありませんが、そもそも新たな問題の発生頻度も少なくなるかもしれません。

【その後の経過】
 2回目(初回の翌週)の面接では、母親から息子の暴力がなくなり手伝いをするようになったという報告があった。さらに翌週の3回目の面接でも息子からの暴力は報告されず、ちょうど母の日があり、何年かぶりにカーネーションをもらって感激したという。「この調子で息子とやっていきます。また困ったらきます」と笑顔を見せて、面接を終了した。

  終結後も、 半年後と1年後にフォローアップの面接を行いましたが、息子の家庭内暴力はその後見られていませんでした。息子はバイトをはじめて数か月無遅刻で頑張っていました。

母親の問題に対する枠組みとカウンセラーのスタンス

 当初、母親は、息子のDVについて、自身の被虐待経験や元夫との関係などと結びつけて考えているようでした。家族関係がこじれ、離婚する時期が、東日本大震災発生と重なり「震災の影響」という言葉もたびたび聞かれました。元配偶者への不満や、「震災さえなければ」という思いを抱くのは自然なことです。それが母親のグチにつながり、息子と住む家の空気を重くしていました。しかし、グチの内容は母と息子では変えることはできず、ただただ雰囲気を悪くするだけのものでした。

 カウンセラー(筆者)は相互作用を重視し、将来の変化を作り出すことにだけを考えました。そこで成育歴や東日本大震災の影響などよりも、面接当時の相互作用(とくに母親の口癖と朝の挨拶)に焦点化して会話を構築しました。

介入は実行より提案が大事

 みなさんは、1つ疑問を持つかもしれません。それは「今回はこの母親があいさつの提案を実行してくれたから成功したけれど、それは大きな賭けであり、あいさつの提案を母親が実行しなかったら、この面接は失敗だったのではないか」と。しかし、その心配は無用です。ブリーフセラピーでは介入を提案すること自体が介入なのです。”実行してもしなくてもいい介入”を提案することがブリーフセラピーを成功させる秘訣です。

 この事例の場合、もし母親が息子に挨拶ができないのであれば、私は次回の面接で「こんなに素晴らしいお母さんでさえお子さんに挨拶をすることすら難しいことがわかりました」とまず母親が介入をしなかったことを肯定的に受け止めるでしょう。そして、母親と共有した上で「ということは、息子さんがお母さんのいいつけを素直に守ることも、わかっていてもできない、やりたくてもやれない非常に難しいことなのかもしれませんね。息子さんがお母さんと同じ悩みを抱えているのならば、息子さんに対して人生の先輩としてどんなことが言えるでしょうか」などと母親に反発する息子の立場に置き換えて面接を進展させたでしょう。つまり、あいさつの提案を母親に伝えられれば、実行しようがしまいがどちらでもよいのです。介入は実行してもらうことではなく、提案をすることが大事なのです。実行しても実行しなくてもどちらでも良い提案を「治療的ダブルバインド」と呼びます(また別の回で詳しく触れたいと思います)。

 家族に何らかの問題が生じると、問題を中心としたコミュニケーションばかりになってしまいます。その結果、問題がないと家族間のコミュニケーションがなくなります。そして、問題に関するコミュニケーションばかりだとお互いに話したくなくなりさらに関係が疎遠になってしまいます。その結果、「これだけは言わなければならない」という大きな問題の時だけ会話をするようになり、さらに会話が重苦しくなっていきます。その結果、

会話が減る→大きな問題の時にだけ話す→家族関係が悪化する→会話が減る…

という悪循環にはまってしまうのです。このような悪循環を解消する場合は、「問題を小さくする」とか「家族関係を良好にする」というのは急には難しいので、まずは会話を増やすことを介入すると効果的です。

 この事例では、母親は小言や独り言(嫌味)で、息子は不機嫌になり暴れることでしかコミュニケーションを取れませんでした。挨拶を入れることで問題行動がなくても会話が増え、コミュニケーションが図られはじめました。コミュニケーションが取れていくと、家族関係にも改善がみられてきます。その最たるものが息子からの母親への母の日のプレゼントだったのでしょう。

まとめ

 今回は、成人した息子の家庭内暴力に悩む母親からの相談事例を通して、ブリーフセラピー(の考え方の1つ)について紹介しました。問題のきっかけや原因探しをするのではなく、クライアントの問題にまつわる相互作用を見て、クライアントとカウンセラーの相互作用も常に意識することがおわかりいただけたかと思います。

 今回、ダブルバインドについて軽く触れましたが、このダブルバインドの扱い方こそが、ブリーフセラピーのポイントでもあります。そこで、次回以降はダブルバインドについてより詳しく取り上げたいと考えております。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。

▼合同会社ぜんと公式ホームページ

▼著書

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