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第23回メールでブリーフセラピーを実践する②~EAPの事例から~(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー

事例のおさらい

 前回(第22回)より、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)で扱った家族問題に関するメールカウンセリング事例を紹介しています。今回はその後半です。 

 今回の事例の家族の状態は以下の通りです。

 前回は、1つ目の介入として、「好ましい行動に注目して褒める」ことを提案し、問題行動に注目する悪循環の切断を狙いました。その続きについて詳しく紹介していきたいと思います。 

カウンセラーからのメール(3通目:後半)

 以下は、前回(第22回)の最後に掲載したカウンセラーからの3通目のメールの続きとなります。前回は「基本方針・1」の紹介で終わっていました。

(以下、3通目のメールの続き)

●基本方針2:問題が発生すると目先の対応ばかり意識しがちですので、長期的な視点を持ちましょう。

 具体的にどのようなことでも構いませんが、私がどのご家庭にもおすすめしているものは、「子どものころには、『G:学力』『T:体力』『N:人間関係』を身に着ける必要がある」「成人すれば子どものことは子ども自身が対応できて、安心して親が死ねる」という2つです(表現がストレートすぎて申し訳ありません)。

 GTNのどれかが不十分だと、幸せな生活は送れません。なお、ここでの力は、「難関校に行ける学力」とか「オリンピック選手のような体力」とか「トラブルのない良好な人間関係」という事ではありません。

・一人で仕事や生活ができる学力(読み・書き・計算)
・健康に生活ができる体力(よく食べ、よく寝て、よく動く)
・嫌な人や苦手な人がいてもある程度は大丈夫な状態

を、成人するまでにクリアするのが理想だと考えます。

 例えば学校を休むとしても「休んでもいいけれど、家で勉強はしてね(学力)」あるいは「休むなら、病院行くか、寝てなさい(体力)」というように、「ただ休んで好きなように過ごさせる」のではなく、何かを入れていくといいでしょう。

 そして息子さんと娘さんは、今回の問題を通して「人間関係」について学んでいると考えます。お子さんがご両親に反発をしたり、逆にお子さんとご両親の意見が対立した場合にお互いに妥協点を見出すなどの経験は今後の人間関係に大きく役立つのではないでしょうか。

 どこまで親が介入するか、どこまで子ども本人に任せるかという事を意識したほうがよいでしょう。旦那さんとも意見の一致が大事ですね。

 つらい思いをするのも大切な経験です。また、大人になるためには必ず経験しなければなりません。子どもたちが歩く道の全ての石ころ(問題)を親が取り除いていたら、子どもは親無しでは歩けなくなります。どこまで転ばせるか、「この石(問題)はさすがに大きいから、手伝おう」といった区別が必要です。

 以上、基本方針2つを紹介しました。

 実際に、この2つを心掛けるだけで問題が改善するご家庭も多いです(それだけ、普段は反対のことをやってしまうのです)。

 メールを拝見する限りでは、娘さんの問題は基本方針1で大きく改善すると思います。

 息子さんの問題は、いろいろ複雑ですし劇的に変わることは考えにくいですが、必ずいい方向に向かいます。

 旦那さんも穏やかで、非常に子育てに協力的なようですね。このメールを見せていただいても構いませんので、ぜひ参考にしていただければと思います。

 夫婦で考え方が違うと、特に娘さんは優しい方に甘えてしまうでしょう。子どもが赤ちゃん返りをしている時に、たっぷり関わることを抑えるのはどの親も苦痛です。

 しかし、子どもの成長を考えた時には、問題行動(赤ちゃん返り)で関わるのではなく、好ましい行動の時にたっぷり関わることが大事です。

 実際、娘さんはハイハイをしていましたが、検査入院の話が出たことで歩けるようになりましたね。ここにヒントが隠されていると思います。

(後略) 

 ここでは、長期的な視点の重要性を伝えています。これは、近視眼的な思考になることでの悪循環を解消するためです。

 長期的な視点を伝える際に、「学力」「体力」「人間関係」(GTN)という軸を提案しました。このGTNは、私が不登校や引きこもりの相談の際には必ずと言ってよいほど用います。この軸に合わせて、子どもの行動をリフレーミングしていくのです。例えば、「友人関係のトラブルで人間関係を学んでいる」、「親子で意見が対立しても上手に落としどころを見つける」などと肯定的にとらえることで、過干渉的な関わりを減らしたり、適切な対処法を身につけていくのです。

 私はGTNをよく使いますが、別に「知・情・意」や「心・技・体」などでも構いません。もちろん、3文字にこだわる必要もなく、2文字でも、4文字でも、リフレーミングできるのであればなんでも使えます。

 先ほどのメールで、驚かれた読者もいらっしゃるかもしれません。相談者のガン再発と手術という状況を理解した上で、あえて「安心して死ねる」というストレートな表現を使いました。この点について、さまざまなご意見があるかと思います。私は、夫婦の問題解決への動機づけをより高めることを意図しましたが、少なくとも本事例では、期待通りの効果がありました。もちろん、このようなストレートな言葉遣いをするのは、これまでの経験や相談の文脈などを踏まえて慎重に判断すべきです。ブリーフに興味を持たれる方が、独特な言葉遣いや大胆な介入だけをコピーして失敗するケースを多く知っています。あくまで私の例であって、その言葉尻だけを真似してもあまり役には立ちません。むしろ、パターンを変えることが重要なので、オリジナルなものを考えていただければと思います。

 最後に、両親が連携する重要性を指摘した上で、問題行動ではなく好ましい行動への注目を実行しやすいように、妹が検査入院の話が出たら歩けるようになったエピソードを振り返りました。これが、ご両親がお子さんへの接し方を変えるためのエビデンスになりました。 

相談者のからのメール(4通目)

 私が3通目のメールを送ってから2日後、相談者から4通目のメールが届きました。

 おはようございます。

 事態が一変しました。今日は子どもたちがニコニコで学校へ行きました

 昨日息子のお迎えの時に、自分の言いたいことをちゃんと言えてよくやった!

 でもやり方は間違っているから、同じことしちゃダメだよ、と伝えました。

 前の小学校へ行って、先生に、ぼくが苦しむのはいいけど、家族が苦しむのは耐えられない! と伝えて、スッキリしたそうです。

 妹は朝まで少しグズグズしていましたが、夫が「もう小学2年生だから簡単だよね」と言ったところ、気持ちが変わったみたいで、自分で準備をして、お手伝いまでしてくれました。

 朝食でパンを焼くときも、自分でできるでしょ?って言うと、すんなり動いてくれました。

 子どもたちも主人も、もちろん私もスッキリニコニコになりました。大きな山がパッと消えた感じです。

 アドバイス、ありがとうございました。

  こちらの介入の2日後のメールですが、実際は、カウンセラーからの3通目のメールは夕方に送信をして、相談者からの4通目のメールは翌々日の早朝には届いていたので、ほぼ1日での変化となります。かなり劇的に改善したことが、相談者の文体からも伝わってきます。

 繰り返しになりますが、ここまで子どもの発達特性のアセスメントやいじめっ子への対応はしていません。しかし、劇的な変化を見せています。これがブリーフセラピーの面白さであり、アセスメントをしてから動くのではなく、動きながら見立てを構築していくポイントでもあります。

 私は次のような返信をしました。

 メールありがとうございました。

 やっぱり! 結構劇的に変わりますよね?

 昨日もお伝えしましたが、ご両親が協力して同じ対応をしたことで成功しました。

 今日も娘さんがグズグズしたとのこと。その際に一方の親が心を鬼にして対応しているのに、もう一方が「かわいそうだから」と甘やかして失敗する家庭が非常に多いです。

 お子さんが一番努力したのは間違いありませんが、Aさんも旦那さんもよく頑張りましたね。

 ぜひ、家に帰って楽しそうにしていたら、思いっきりスキンシップしてあげてください。

 夕飯のおかずを子どもの好きなものにしたり、ケーキを買って帰ったりなど、「あからさまなごほうび」が効果的です(初日だけ)。

 もちろん「学校でこんなことがあった」と子どもが愚痴るかもしれませんが、「そっかぁ、大変だったね。でも、頑張ったんだ」と本人の努力をねぎらってください(もちろん、内容はしっかり聞いて、いじめなど介入すべきかどうか見極めが必要です)。

 一日でも、Aさんが驚かれるほど状況は変わりましたから、これをまず1週間、そして冬休みまで続けてみてください。そうすれば、引越しや転塾なども冷静に考えられると思います。

  このあと、何度かメールをやり取りしましたが、特に介入はせず、ねぎらいを中心とした返信を行いました。相談者は予定通り入院し手術も成功しました。退院後は仕事にも復帰してバリバリ活躍しています。

 それからも、数か月に一度、近況報告のメールが届きます。子どもが成長し思春期になり、相談者自身の体調の問題もあり、その後もこまごまとした問題や悩みは尽きませんが、「あの時うまくいったのだから、このくらいなんとでもなる」という自信があり、夫婦で連携して上手に対応されています。 もちろん、夫婦で対応できない場合は、カウンセラーに相談すればよいという安心感もあるでしょう。

メールカウンセリングの良さ

 前回と今回で、メールカウンセリングでのブリーフセラピーの事例を紹介しました。

 メールカウンセリングは、非言語コミュニケーションがとらえにくいというデメリットがあるものの、文字で残るのが大きな特徴です。この特徴を生かすことが大事です。例えば、今回は母親からの相談でしたが、メールを夫(父親)に転送してもらうことで、夫婦合同面接をしているような夫婦の連携が見られました。

  【第21回】で紹介した、母親面接でも父親のメールアドレスを使っていることを利用して、父親にメッセージを伝えました。このように、夫婦に限らず複数の関係者にメッセージを共有するのはとても大切です。その際の伝え方などは、普段行っている対面での家族面接で心掛けているポイントを生かすことができます。

  また、文字として残るのでリマインドができることがあります。今回紹介した事例は相談者が介入の意図を汲み取りすぐに実践してもらいました。しかし、すぐには実践できなかったり、対面の面接の場合だと、口頭で介入を伝えると覚えていない場合も多いものです。メールの場合はいつでも読み返せますので、相談者もいつでも確認ができますし、カウンセラーも再送をしたり、補足することも容易です。

 もちろん、相談者によってメールでのコミュニケーションが苦手な人も多いでしょうし、やはり対面で細かく反応を見ながら進める方がよい相談も多いでしょう。「対面かメールか、どちらのカウンセリングが効果的か?」といった議論は、個人的には全く興味はありません。どちらもそれぞれの良さがあるからです。 「相談者に役立つことがあれば何でもござれ」というスタンスで、メールなどのリソースを活用していくことが大切だと考えます。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。

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