第23回メールでブリーフセラピーを実践する②~EAPの事例から~(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー
事例のおさらい
前回(第22回)より、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)で扱った家族問題に関するメールカウンセリング事例を紹介しています。今回はその後半です。
今回の事例の家族の状態は以下の通りです。
前回は、1つ目の介入として、「好ましい行動に注目して褒める」ことを提案し、問題行動に注目する悪循環の切断を狙いました。その続きについて詳しく紹介していきたいと思います。
カウンセラーからのメール(3通目:後半)
以下は、前回(第22回)の最後に掲載したカウンセラーからの3通目のメールの続きとなります。前回は「基本方針・1」の紹介で終わっていました。
ここでは、長期的な視点の重要性を伝えています。これは、近視眼的な思考になることでの悪循環を解消するためです。
長期的な視点を伝える際に、「学力」「体力」「人間関係」(GTN)という軸を提案しました。このGTNは、私が不登校や引きこもりの相談の際には必ずと言ってよいほど用います。この軸に合わせて、子どもの行動をリフレーミングしていくのです。例えば、「友人関係のトラブルで人間関係を学んでいる」、「親子で意見が対立しても上手に落としどころを見つける」などと肯定的にとらえることで、過干渉的な関わりを減らしたり、適切な対処法を身につけていくのです。
私はGTNをよく使いますが、別に「知・情・意」や「心・技・体」などでも構いません。もちろん、3文字にこだわる必要もなく、2文字でも、4文字でも、リフレーミングできるのであればなんでも使えます。
先ほどのメールで、驚かれた読者もいらっしゃるかもしれません。相談者のガン再発と手術という状況を理解した上で、あえて「安心して死ねる」というストレートな表現を使いました。この点について、さまざまなご意見があるかと思います。私は、夫婦の問題解決への動機づけをより高めることを意図しましたが、少なくとも本事例では、期待通りの効果がありました。もちろん、このようなストレートな言葉遣いをするのは、これまでの経験や相談の文脈などを踏まえて慎重に判断すべきです。ブリーフに興味を持たれる方が、独特な言葉遣いや大胆な介入だけをコピーして失敗するケースを多く知っています。あくまで私の例であって、その言葉尻だけを真似してもあまり役には立ちません。むしろ、パターンを変えることが重要なので、オリジナルなものを考えていただければと思います。
最後に、両親が連携する重要性を指摘した上で、問題行動ではなく好ましい行動への注目を実行しやすいように、妹が検査入院の話が出たら歩けるようになったエピソードを振り返りました。これが、ご両親がお子さんへの接し方を変えるためのエビデンスになりました。
相談者のからのメール(4通目)
私が3通目のメールを送ってから2日後、相談者から4通目のメールが届きました。
こちらの介入の2日後のメールですが、実際は、カウンセラーからの3通目のメールは夕方に送信をして、相談者からの4通目のメールは翌々日の早朝には届いていたので、ほぼ1日での変化となります。かなり劇的に改善したことが、相談者の文体からも伝わってきます。
繰り返しになりますが、ここまで子どもの発達特性のアセスメントやいじめっ子への対応はしていません。しかし、劇的な変化を見せています。これがブリーフセラピーの面白さであり、アセスメントをしてから動くのではなく、動きながら見立てを構築していくポイントでもあります。
私は次のような返信をしました。
このあと、何度かメールをやり取りしましたが、特に介入はせず、ねぎらいを中心とした返信を行いました。相談者は予定通り入院し手術も成功しました。退院後は仕事にも復帰してバリバリ活躍しています。
それからも、数か月に一度、近況報告のメールが届きます。子どもが成長し思春期になり、相談者自身の体調の問題もあり、その後もこまごまとした問題や悩みは尽きませんが、「あの時うまくいったのだから、このくらいなんとでもなる」という自信があり、夫婦で連携して上手に対応されています。 もちろん、夫婦で対応できない場合は、カウンセラーに相談すればよいという安心感もあるでしょう。
メールカウンセリングの良さ
前回と今回で、メールカウンセリングでのブリーフセラピーの事例を紹介しました。
メールカウンセリングは、非言語コミュニケーションがとらえにくいというデメリットがあるものの、文字で残るのが大きな特徴です。この特徴を生かすことが大事です。例えば、今回は母親からの相談でしたが、メールを夫(父親)に転送してもらうことで、夫婦合同面接をしているような夫婦の連携が見られました。
【第21回】で紹介した、母親面接でも父親のメールアドレスを使っていることを利用して、父親にメッセージを伝えました。このように、夫婦に限らず複数の関係者にメッセージを共有するのはとても大切です。その際の伝え方などは、普段行っている対面での家族面接で心掛けているポイントを生かすことができます。
また、文字として残るのでリマインドができることがあります。今回紹介した事例は相談者が介入の意図を汲み取りすぐに実践してもらいました。しかし、すぐには実践できなかったり、対面の面接の場合だと、口頭で介入を伝えると覚えていない場合も多いものです。メールの場合はいつでも読み返せますので、相談者もいつでも確認ができますし、カウンセラーも再送をしたり、補足することも容易です。
もちろん、相談者によってメールでのコミュニケーションが苦手な人も多いでしょうし、やはり対面で細かく反応を見ながら進める方がよい相談も多いでしょう。「対面かメールか、どちらのカウンセリングが効果的か?」といった議論は、個人的には全く興味はありません。どちらもそれぞれの良さがあるからです。 「相談者に役立つことがあれば何でもござれ」というスタンスで、メールなどのリソースを活用していくことが大切だと考えます。