第21回 家族へのアプローチ② ~不登校児の母親との継続面接~(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー
前回のおさらい
ブリーフセラピーの実際の面接の様子ついて事例を元に紹介しています。前回(第20回)は、登校の小4男児(IP)に関する母親(Cl)への初回面接の様子をお伝えしました。
父親は仕事中心で子育てには非協力的……かと思うと、突然暴力的な行動で子どもを刺激する。そのため、子どもは父親を怖がってしまい、さらに父親と子どもの関係が悪化する。同居する姑は「嫁(Cl)の育て方が悪いから孫が不登校になっている」と近所に嘆いて回るため、母親はご近所の目が気になり外出をしないようになりました。さらに担任には「ご家庭の力で登校させてください」と言われ、男児の妹が通う幼稚園の先生からは「爪かみが目立つ」「愛情不足なのではないか」と言われるなど、母親が孤立している状況でした。
私(カウンセラー:Co)は、母親の孤立の悪循環が問題を悪化させていると見立て、カウンセリングの際に子どもの面倒を見ている夫に対して感謝のメッセージを伝えるように提案しました。
さて、その続きです。
初回面接終了後、面接内容を振り返りました。申し込みのメールが父親の職場メールであったことを思い出しました。そこで、次回面接日時の確認もかねて、次のようなメールを送りました。
第2回面接
第2回の面接は、初回面接の4週間後に行いました。
来談した母親によれば、2週間前に新学期が始まったといいます。
そして、前回面接での「学校には全く行けないだろう」という母の予想に反し、何回か登校しているとのことでした。
この話を聞き、Co(筆者)は心底驚き、父親と担任の協力に感謝を伝えた上で、母親の大いに労いました。
さらに学校の様子を聞くと、登校する時も、“子どもが疲れてしまうと思うので”、午前中で母親が迎えに行くようにしているといいます。ですが、迎えに行った際に担任がIPに「さみしいからもう少し学校にいてよ」と言ったところ、IPが「うん。まだいる」と答え、結局放課後までいる日も増えたとのことでした。
他にも、学校行事が近づいているので、担任がIPの意志を確認した上で、IPに重要な係を任せたそうでした。それ以来、毎日登校するのは無理ですが、登校する日が増えてきたといいます。
Go Slow ParadoxとReframing
ここまでの様子を聞いて、改めて担任と父親の協力を明確にした上で、その2人の協力を勝ち得た母親の努力を労りました。その上で、次のように続けました。
第3回面接
第2回面接のさらに4週間後(初回面接から8週間後)に、第3回目の面接を行いました。母親(Cl)の表情は明るく、泣き通しだった初回とは見違えるように、にこやかな表情をしていました。
Co(筆者)は、終始、母親の話を肯定的なメッセージが伝わるようなあいづちを意識しながら聞いていました。ときおり、夫や姑の振る舞いについて不満を漏らすこともありましたが、そういう時には「先ほどの話に戻させてください」とあえて話題を変えるようにしました。姑と母親の関係はまだよくないものの、子どもが学校に行き始めたこともあり、近所で母親の愚痴を言うことは減ってきたとのことです。
その後
第4回の面接を予定していたものの、母親の都合が悪くなりキャンセルとなりました。キャンセルの連絡の際に、状況を確認したところ、週1日程度の欠席や早退があるものの、登校は続いているとのこと。休日の家族の時間を大切にしてほしいことと、遠方から新幹線で通ってきていたこともあり、「また必要があればいつでも面接を再開する」と約束し終結といたしました。
その後は半年に一度、フォローアップを行いましたが、それ以後も特に大きな問題はなく登校しているそうです。さらに、妹の爪かみもなくなり(爪が伸び始めた)、きょうだいげんかもせず仲良く過ごすことが増えていると語られました。
家族と周囲の変化
面接申し込み時と、終結時のそれぞれの変化をまとめてみました。
家族面接では「さざ波効果」ともいわれますが、池に石を投げ込むことで波紋が広がっていくように、どこか一つを介入することで、このように関係者全体に変化が生じることがあります。
一番大事なことは、「犯人探し」「原因探し」にこだわらず、前回紹介したような悪循環で問題をとらえることです。今回紹介した事例でも、「夫婦関係」「親子関係」「嫁姑問題」「学校の対応」「妹に対して母親の愛情不足ではないか」など、面接初期にはさまざまな問題が見え隠れしていました。しかし、「これまでの関係の何が悪かったのか」ではなく「今後どうすればいいのか」という解決に注目することで、このように短期で劇的に問題が解決する。それがブリーフセラピーの良さなのです。
これが「夫婦関係」「嫁姑問題」「子どもへの愛情」などばかりに目を向けると問題がさらにややこしく複雑になってしまいます。いろいろな、ノイズに振り回されずClから語られるコミュニケーションに注目することでシンプルな見立てができます。
さいごに
前回と今回で、息子の不登校に悩む母親との面接事例を通して、ブリーフセラピーの実際を紹介しました。
実は、この事例は20年以上前に私が大学を卒業した直後に家族療法家として初めて一人で担当した事例です。大学を出て、大学院にも進学せずにカウンセラーとなり初めてのケースでした。もちろん、当時の私は勉強不足で、今この原稿を書きながら振り返っても粗削りな面接ではありましたが、それでもこれだけ劇的な改善をしました。当時はこの変化に非常に驚き、ブリーフセラピーのすごさを実感したものです。そして、ブリーフセラピーがマジカルなものではなく、誰でも基本に忠実に実践すれば絶大な効果が発揮されることを実感しました。
次回以降も事例を通してブリーフセラピーの実際について紹介します。基本の大切さと誰にでもできる手軽さをお伝えできれば幸いです。