はじめに
前回、観察課題について紹介しました。「とりあえず様子を見ましょう」「しばらくは見守りましょう」というのは、観察課題ではありません。相談者の役に立つどころか問題を長期化・深刻化させるだけです。観察を情報収集のために提案するのであれば「何について観察をするのか」「いつまで観察を続けるのか」などを明確にする必要があること強調しました。
今回は観察課題を情報収集だけでなく、さらに効果的に使う方法を紹介いたします。
観察で悪循環パターンを変えることができる
観察課題には情報収集だけではなく、パラドックスの意味合いがあることを分かっていると、ブリーフセラピーは非常に扱いやすいものになります。少し長くなりますが、事例を紹介いたします。
●小学校におけるスクールカウンセリングでの事例
まさに即答でした。余談ですが、ソリューション・フォーカスト・アプローチを実践する時にも、例外を聞く際に考える気もないかのような早さで否定されることがあります。この時に、「そういわずにもっとちゃんと考えてみてください」とたずねると、<質問する→否定する→より深く質問をする→より強く否定する>という悪循環に陥り、失敗します。したがって、別な方向から切り返す必要があります。
この時は、大げさに驚き、顔をしかめて、質問を続けました。
このように、「ない」と即答していたにもかかわらず、聞き方を工夫すると驚くほどあっさりと答えてくれます。ここで「なんだ、やっぱりいいところもあるじゃん」などと「ある」前提で受けるのではなく、「えっ、あったの!!」という驚きの姿勢を示すことが重要です。ソリューション・フォーカスト・アプローチを作り出したインスー・キム・バーグが多用した「Wow!」です。
休み時間の10分程度でクロージングしなければいけないので、早速介入に入ります。
後から、担任から伺った話ですが、以前はA君のいるところで女子児童たちはA君をチラチラ見ながらA君に聞こえるような声の大きさでわざわざA君の悪口を内緒話のようにしたり、すれ違う時に「さわらないで、シッシッ!」などと、A君を露骨に避けるような態度をとっていたそうです。その態度に対して、A君はイライラして「なんでそんなことするんだよ」などと女子児童たちに怒りをぶつけ、女子児童たちが「あなたに関係ないでしょ、こっち来ないでよ!」などと言い返すことでいざこざに発展していたようです。
観察課題を提案したことにより、女子児童たちがA君を露骨に避けるような態度や、わざとA君を見ながら内緒話をするようなことがなくなりました。それによって、A君も女子児童たちにいら立つことがなく穏やかなにふるまい、A君の穏やかなふるまうことで女子児童たちもA君に言い返すことがなく、穏やかなやり取りになった(別の拘束を与えた)わけです。
このように観察課題を提案するという介入によって相互作用に影響を与えて、今までのパターンを変えることもできるのです。
問題の観察と例外の観察を意識して提案する
このように観察課題は単なる観察ではなくパラドックスの意味を持つこともあります。つまり、観察という行動によりこれまでの偽解決行動に変化を与えます。したがって、観察課題では「問題場面の観察」を提案しますが、子どもへ観察課題を提示する場合は、単純に例外場面の観察の方がうまくいきます。
大人の場合は、「問題を回避するための行動」がすでに繰り返され偽解決行動となっていることほとんどです。したがって、「問題場面を観察してきてください」と提案することで偽解決行動に変化を与えることができます。
この事例では、母親の背中をさすったりして安心させようとする偽解決行動に対して、「時間をはかる」ことで変化が生じました。このように観察課題を提案することでこれまでの悪循環自体に介入できる場合もあります。
同様の観察の使い方が、第12回で紹介した事例にも登場しています。その事例では、兄弟の不仲を相談に来た母親に「どれが『わざとのケンカ』で、どれが『本当のケンカ』なのか」を当ててもらうために観察してもらいました。この場合も、「本当か、わざとか」を確かめるため、母親の動き(例えば、ケンカしないようにケンカになる前に母親が兄弟を仲裁に入ることで母親の取り合いになり、母親の取り合いから兄弟げんかに発展するなど)が変化したことで悪循環が解消されたのだと考えられます。
まとめ
前回と今回で観察課題について考えてきました。「様子をみましょう」「見守りましょう」と観察は明らかに違うことがお判りいただけたと思います。
実際に紹介した事例のように、私もカウンセリング場面では観察課題だけで問題が解決する場合も非常に多くあります。だからこそ、事例検討などで「とりあえず様子を見ましょう」といったその場しのぎの対応を「観察課題を提案しました」と混同されると非常に残念に思っていました。
拙稿をきっかけに、観察課題について少しでも意識してもらい、何を介入すべきかわからないから「とりあえず様子を見ましょう」と伝えるというような、相談者に失礼なことが少しでも改善されれば幸いです。
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