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第18回 スケーリングクエスチョン② ~円環的に使う~(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー

 はじめに

 前回、スケーリング・クエスチョンは抽象的な事象を数値化することで、解決に向けた会話を促進する効果があることを紹介しました。その上で、①動機づけの高さ、②差異を明確にする、③自己評価について、④解決への取り組み状況、での使い方を紹介しました。さらに、スケーリング・クエスチョンをすること自体が、解決への変化の途上であることを暗示する効果があることを指摘しました。

  スケーリング・クエスチョンで本人の抽象的な事象を数値化することは、個人カウンセリングや職場での1on1面接などで役立ちます。その際、面接をしている相手自身だけではなく、本人を取り巻く家族や学校会社といったシステムへスケーリング・クエスチョンを活用するとさらに情報に立体感が出てきます。

円環的に使う

システムにスケーリング・クエスチョンを使うとは、どういうことでしょうか。実際にいくつかの質問法を紹介します。

「(子どもに対して)このことについてお母さんは何点ぐらいだと言うでしょうか?」
「上司は今の進捗状況について何点ぐらいだと(思うでしょうか?)」
「(夫に対して)夫婦関係について奥さんは何点だと言うと(あなたは)思いますか?」
など。

  このように、スケーリング・クエスチョンは円環的に質問をすることもできます。個人的には、この使い方がお気に入りです。質問内容は動機づけの高さ、自己評価、解決への進捗など、どの内容でも構いません。

情報に立体感を出す

 大事なことは、同じ質問をまず本人にすることです。本人の評価点を出しておいた上で、「ところで、あなたから見て○○さんは、同じ質問をしたら何点と答えると思いますか?」と関係者の評価をイメージしてもらうのです。そのことによって、点数の差異(情報)だけではなく、関係者とクライアントの差異(情報)も浮かび上がってくるのです。この際によって、二次元から三次元になるような立体感が出てきます。

システムを動かすために用いる

 もちろん、スケーリング・クエスチョンは回答者(目の前にいる相談者)の主観ですので、「当たっているか外れているか」は問題ではありません。当然、答え合わせも必要ないのです。しかし、戦略的に有効だと判断した場合には、あえて確かめることもあります。

①他者評価を入れることで変化を与える

 いわゆる自己肯定感が低く、ネガティブ思考“のように見える”クライアントには効果的なことが多いです。本人はとても努力をしており、周りはそれを認めているにもかかわらず「私なんて…」と否定的に考えてしまう。そして、その否定的な考えや本人の努力(解決努力)が悪循環を維持させていることがあります。 

 このような時には、「実際に確認してみましょうか?」と関係者に確認をすることができれば効果的です。

②関係者を仲間に加える口実にする

 関係者がその場にいない場合、「次回までに確認をしてきてください」とクライアントに頼むこともできます。うまくいかない場合は、次のセッションに関係者を呼んで確認することをお勧めします。あえて、関係者を面接に参加させる(呼んできてもらう)口実として、このスケーリングを使う場合もあります。

 カウンセリングをする際には、家族に伝えてから来談する人ばかりではなく、配偶者に内緒で夫婦関係の相談に来た場合や、子どもに言わずに子育てについて相談に来た保護者の場合もあります。もちろん本人だけの相談でもうまくいきますが、相手を連れてくるとさらに短期で効果的な面接ができることがあります。その際に、「この点数、本当なのかすごく興味があります。次回、連れて来ていただいていいですか?」といった感じで提案をすることができます。

確認する際のコツ

 確認をする際に注意をすべきことは、クライアントが「関係者が応えるであろう」と当初予想した点数(評価)に対して、実際の関係者の方が同じぐらいあるいはそれ以上に評価しているだろうと確信がある時に確認することです。クライアントの想像以上に関係者が低く評価している場合は、デメリットの方が大きいからです。段落冒頭に書いた通り、「戦略的に有効だと判断した場合」に限ります。 

家族面接でのスケーリングの使い方

 たとえば、夫婦面接を考えてみましょう。夫婦一緒に来談し、夫婦の問題や子育ての問題について話し合います。この際に、スケーリングをする場合がありますが、口頭で順番に聞いていくと先に答える人が答えにくかったり、後で答える側が先の人が答えた点数に同調したり反発するなどの影響を受けてしまうことが多くあります。そこで、工夫をする必要があります。

 何をたずねるのかを明確にする

 スケーリングをする場合、問題解決のやる気(動機づけ)や自己評価などについて自分自身のことを答えてもらうことが基本です。その上で、「来談している他のメンバーは、どのくらいやる気があるか(もしくは、自己評価をしているか)」などをたずねます。さらに、「あなたがお相手(配偶者)のやる気(もしくは、自己評価)を何点と書いているか、予想を書いてください」とより円環的にたずねることもできます。

多様な答えを保証する

 このように円環的な質問をしていくのですが、その際は次のような前提を示すことが大事です。

「今日はお二人がおそろいで、お越しいただいてありがとうございます。協力して問題に取り組まれていて心強いです。ところで、いくら協力している夫婦とはいえ、それぞれ別の人間ですので頭の中身も違います。当然考えていることも違います。そこで、これからうかがう質問はそれぞれにお聞きしますので、当然違う答えが出てくると思います。その違いこそが大事ですので、率直に答えてください。」

 このように断りを入れた上で、必要なスケーリングをする。あとで聞く人の時には、再度「頭が違うので答えももちろん違うこともあるでしょうが」などと改めて伝えた上で質問をしましょう。ここで、夫婦間の差異が見えることがあります。その差異について取り上げることで問題が解決することも多くあります。

口頭ではなく紙に書いてもらう

 複数人いる面接場面では、口頭ではなく紙に書いてもらうこともあります。例えば、次のような提案です。

「紙をお渡ししますので、上にまず自分の点数をお書きください。下にお相手がどのように評価していると思うか予想を書いてください。」

 紙に書いてもらった後は、いろいろな進め方があります。シンプルに、紙に書いた答えを口頭で発表してもらうこともあります。これは、先には答えにくかったり、後で答える側が先の人が答えた点数に影響を受けてしまうことを防ぎます。

カウンセラーだけが数字を見る

 口頭で答えてもらうのではなく、「私が答え合わせをさせていただきます」といってカウンセラーだけが見ることもできます。この場合は次のアクションとして、

  • 確認した後、本人に返す

  •  紙を広げて全員で点数を共有する

  • 広げて共有はせず、本人ではなく相手に渡す(紙を交換する)

  • カウンセラーが受け取ったまましまう

 ……など、他にもいくつもの方法が考えられます。これらの中から問題解決に向けてどのようなアクションが有効かを判断するのがブリーフセラピーの楽しさでもあり、難しさでもあります。

  以下、1つの事例を紹介しましょう。

  子どもの問題行動に関して来談した夫婦の面接である。

 初回面接にて夫婦で来談。面接当初は、(コロナ禍になる前にも関わらず)席を離してお互いに背を向けるようにして座っていた。夫が話し始めると、妻が夫から肩を遠ざけて体を逸らせているのが印象的だった。

 そんな中、子どもの問題行動への対処について、カウンセラーそれぞれをねぎらいながら、「(夫婦どちらも)一人では対応していないこと」を明確に述べながら面接を続けた。時折、「もっと、夫(妻)が○○をしてくれたら」「××をしてしまうからから」などと配偶者への不満が出る際には、「相手を頼りにしている、期待の表れ」と、リフレームをしていった。

  お互いに相手を肯定する発言が見え始め、アイコンタクトの回数が増えてきたころ、カウンセラーは、次のように提案した。

 「ここまで、ご夫婦の足並みがそろわない時はあったものの、お子さんの問題についてどちらも一生懸命に取り組まれてきたことがわかりました。そこで、少し変わった質問をさせていただきます。ご自身のお子さんに対するこれまでの取り組みと、お相手(配偶者)のお子さんに対する取り組みについて、ご質問します。これからお渡しする紙に、それぞれ、100点満点で記入してください」

 書き終わった後、カウンセラーは紙を受け取り、点数を確認した。点数はどちらも、自分よりも配偶者の点数を高く評価していた。そこでカウンセラーは「あっ、ごめんなさい。大事なこと忘れてました。ちょっと理由も書いてもらえますか?」と伝えて、一旦紙を返しました。

  改めて、夫婦がお互いに書き終わったのを確認し、「今度は私が受け取るのではなく、(ユーモラスな口調で)相手がどんなひどい点数をつけているか、ちょっと交換してみませんか?」と紙を夫婦で交換するように促した。

 交換した紙を見て、しばし母親は嗚咽し、父親も照れ笑いを浮かべていた。

  次の面接で、子どもの問題行動が激減したことが語られ、本面接は順調に終結した。

 この面接では、スケーリング・クエスチョンを行う前段階が重要でした。リフレーミングなどを用いて高く評価するように会話を構築していったのです。それでも、点数が悪かった場合は、理由を書かせたり交換したりすることなく、別のアプローチをしていたことでしょう。

点数ではなく情報が重要

 前回、今回と、2回にわたりスケーリング・クエスチョンについて取り上げました。 

 何をたずねるか(動機付け、差異、自己評価など)、誰についてたずねるか(本人、関係者、本人から見た関係者、関係者が本人をどう見ていると本人が考えるか、など)、どのようにたずねるか(タイミング、前振り、後始末など)、他にもさまざまなバリエーションがあり、柔軟に工夫ができるのがこの質問の良いところです。

 ここでも大事になってくるのはこの質問を行う戦略性です。面接内のルーティンとして、検温をするかの如く数字だけ確認するだけでは役に立ちません。 

 スケーリング・クエスチョンには、カウンセラーによってのこだわりであったり、問題解決に対する哲学がみえたりするので、非常に興味深いところがあります。今回紹介したことも、私一人が考えるほんの一部分にすぎません。教えられたスケーリング・クエスチョンのやり方をそのまま実行するのではなく、「どうすれば、この場面で一番役立つだろうか?」と常に意識して、面接を楽しんでください。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。

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