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第13回 これまでの振り返りと、さまざまなアプローチの活かし方(吉田克彦:合同会社ぜんと代表) 連載:家族療法家の臨床ノート―事例で学ぶブリーフセラピー

気がつけば6か月

 本連載もおかげさまで6か月が経過しました。ここまで読んでいただいて心より感謝いたします。

 本連載では、「ブリーフセラピーというのは関係者の相互作用を重視していること」と、それ以上に「ブリーフセラピー的なエピソードは日常のいたるところにあり、誰でも活用できること」をお伝えしたいのですが、充分表現ができているでしょうか。

 今回は、これまでの12回の連載の内容について、上記の2点から振り返りたいと思います。

ブリーフセラピーは身近で誰でもできる

 第1回から第3回では、ブリーフセラピーを身近に感じてもらえるように日常のブリーフセラピー的なエピソードを取り上げました。

 まず、誰でもできる例として、日常のブリーフセラピー的なエピソードとして認知症患者への接し方、玉入れの片付け、トイレの工夫を紹介しました【第1回】。これらのエピソードはブリーフセラピーを学んだことのない方の「何気ないコツ」ばかりです。これらのエピソードを通じて、ブリーフセラピーは相互作用を重視するため、原因追及や犯人探しは重視しないことも紹介しました。

 次に、日常のブリーフセラピー的なエピソードとして、「カラス進入禁止」の貼り紙について紹介し、相互作用(コミュニケーション)について考えました【第2回】。そこでは、人は文字通りや意味通りに行動するのではなく、文脈に依存することを指摘しました。

 そして、個人と環境との相互作用についても紹介しました。私たちは、人からのメッセージだけではなく、場のメッセージに拘束されています。エピソードとして、在宅勤務の座る位置を変えた事例を紹介しました【第3回】。私たちは、寺社仏閣などを訪れると厳かな雰囲気になったり、車を運転する時には別人のように荒っぽくなるなど、人や文字だけでなく場面による拘束を受けることもあります。すべてのことがメッセージになり得るのです。

 このように、日常にブリーフセラピー的な考え方が有効であり、普段使いこそがブリーフセラピーの良さだと私は考えています。

パターンを変える、そしてダブルバインド

 第4回からは、カウンセリングの事例を紹介しながら、相互作用について考えました。

 1つ目は成人男性の母親に対する家庭内暴力の事例をアレンジしたエピソードを元に、ブリーフセラピーの実際のカウンセリングの様子を紹介しました【第4回】。事例を通して、ブリーフセラピーでは、介入を実行してもらうかどうかではなく、提案すること自体がパターンを変える引き金になることをご理解いただけたと思います。

 第5回以降は、私にとってのブリーフセラピーで核心部分となる、ダブルバインドについて取り上げました。

 まずは、ダブルバインド仮説についてきっかけとなったベイトソンプロジェクトでの統合失調症家族の事例について触れ、ダブルバインドに必要な条件について説明しました。次に、日常でのダブルバインドとして、職場、学校、被災地でのダブルバインドの例を紹介しました。最後にダブルバインドを抜け出すためには、「言及する」あるいは「関係を抜け出す」必要があること書きました【第5回】

 第6回から第8回は、実際の事例をアレンジした女子高生と母親とのカウンセリングについて紹介し、ダブルバインドを臨床でどう扱うかを私の視点から紹介しました。事例の中にあるダブルバインドをどのように見立て、そして問題解決にダブルバインドをどのように生かすか(治療的ダブルバインド)。他のアプローチとは違うブリーフセラピーらしさに気づいていただけたと思います【第6回】 【第7回】 【第8回】。1つの事例、それもアレンジした上で文字だけでの説明では十分に伝えきれていないかもしれません。そこで、第9回から第12回を使って、治療的ダブルバインドについて、さらに取り上げました。

治療的ダブルバインドについて

 不眠の相談に対して「寝る練習として起きろ」と伝えるパラドックス介入の事例を紹介しました【第9回】。その上で、パラドックス介入は治療的ダブルバインドであると説明しました。一パラドックス介入には、演技課題、過重課題、低速課題(ゴー・スロー・パラドックス)などがあることに軽く触れましたが、これら3つの介入課題の詳しい説明は今後行います。

 また、パラドックス介入以外でも治療的ダブルバインドは活用できることも触れました。

 治療的ダブルバインドを考える難しさとして、思いつかない場合(創造性の問題)を取り上げました。そしてトレーニングとしては普段からポジティブリフレーミングを実践することを紹介しました【第10回】 【第11回】

 治療的ダブルバインドの難しさとしてリスク回避(現実性の問題)について、子どもの兄弟げんかに悩むシングルマザーの事例を紹介しました【第12回】。「家庭内暴力には殴り返せばいい」「引きこもりは放っておけばいい」「自傷行為はもっとさせるべき」など、一見するとパラドックス介入のように見えますが、これらは治療的ダブルバインドではなく、単なる暴言です。単なる暴言なのか、ブリーフセラピー的な介入なのか、その違いをリスク回避に全力で取り組むことの違いだと私は考えます。

 以上、ここまでの連載の内容を振り返ってみました。わかりやすくしたいと考えて試行錯誤を繰り返していますが、いかがでしょうか。ブリーフセラピーは誰にでもできる、相互作用を重視する、パターンを変えるためにダブルバインド(治療的ダブルバインド)を見立てる、そしてリスク回避に全力で取り組むことが重要。以上について、少しでも参考にしていただけると幸いです。

考え方から具体的なテクニックへ

 さて、ここまでは、基本的な考え方について説明してきましたが、次回は具体的なテクニックについて紹介していきます。これまではコミュニケーション派家族療法(MRIアプローチ)や、戦略派家族療法の考え方を基本に紹介してきました。

 ここから具体的なテクニックを紹介するためには、ソューション・フォーカスト・アプローチやナラティブ・アプローチのテクニックが非常に有効です。現在のパターンを見つけて、これからパターンを変えるためにはソリューションフォーカストアプローチの質問技法は特に役に立ちます。

パターンを変えるためのアプローチ

 ここで、唐突にソリューション・フォーカスト・アプローチやナラティブ・アプローチなどが出てくることで混乱が生じる方もいるでしょう。正直、私自身もブリーフセラピーを初めて10年ぐらいは混乱がありました。このようにさまざまなアプローチを使っていることが、ブリーフセラピーをわかりにくくしている理由の一つでしょう。

 ソリューション・フォーカスト・アプローチもナラティブ・アプローチも(最近ではオープンダイアローグなども)、MRIアプローチに多大な影響を受けています。そして、相互作用的、かつ社会構成主義的な考え方も共通しています。

 私は、パターンを変えるという意味で、これらのアプローチを重視しています。つまり、問題ばかり話している家族にはソリューション・フォーカスト・アプローチ的な介入を、ネガティブな考えが強い場合はナラティブ・アプローチ的な面接進行をしていきます。このようにパターンを変える手段としてさまざまなアプローチを使っています。パターンを変えるということを考えれば、認知行動療法のメソッドもブリーフセラピーに大いに役立ちます。

次回に向けて

 次回から、カウンセリングはもちろん日常生活でブリーフセラピーを活用する上でも役立つ、具体的な質問法などを紹介していきます。その中には、リフレーミングや観察などブリーフセラピー以外のアプローチでも使われている技法もあります。しかし、ここまで12回をかけてお伝えした通り、ブリーフセラピーでは徹底的に相互作用とパターンを見ています。

 ぜひとも相互作用、そしてパターンを意識して引き続きお付き合いいただきたいと思います。次回、ソリューション・フォーカスト・アプローチで主に使われるスターティングクエスチョンについて取り上げたいと思います。

執筆者プロフィール

吉田克彦(よしだ・かつひこ)
合同会社ぜんと代表。精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、定額制メールカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。研修や事例検討会のスーパーバイズはのべ500回を超える。

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